「加計」へのスタンス 前川氏批判の月刊誌

「メモ」利用の左派新聞と真逆/野党・メディア劣化に切り込む

 学校法人「加計学園」(岡山市)の愛媛県今治市への獣医学部新設計画をめぐる国会閉会中審査が終わった。審査を要求した野党は、安倍政権による政治的圧力で公正であるべき行政が歪(ゆが)められたことを印象付け、倒閣運動を加速させようと狙ったのだろうが、その思惑は空振りとなり、大山鳴動して鼠(ねずみ)は一匹も出なかった。

 むしろ、閉会中審査によって、逆に安倍政権が国家戦略特区をテコに、業界の利権保護や官僚の天下りと結び付き、歪んでいた規制行政を正すというのが獣医学部新設の肝であることが浮き彫りになった。同時に、加計学園による獣医学部新設について「総理の意向」と書いた文科省「メモ」が不正確であっても、それが倒閣のためなら飛びつく野党の劣化と左派メディアの偏向が深刻なレベルに陥っていることも明らかになった。

 閉会中審査が行われる以前に編集・発売されたにもかかわらず、月刊誌8月号には、保守派の雑誌を中心に、安倍政権に瑕疵(かし)がないことを主張している論考が多い。野党と同じようなスタンスとなっている左派マスコミと真逆と言っていい。

 例えば、麗澤大学教授・八木秀次の論考「前川喜平を持ち上げるワイドショーは、やっぱりおかしい」(「正論」)、嘉悦大学教授の高橋洋一の「森友・加計問題はフェイクニュース」(「Voice」)、産経新聞社論説委員の阿比留瑠比と作家の百田尚樹の対談「前川前次官は官僚のクズ」(「WiLL」)がある。

 また、「Hanada」は、特集「砂上の楼閣、加計学園問題」を組み、評論家・八幡和郎の「前川前次官 正義ヅラは笑止千万」、参議院議員・和田政宗の「前川前次官と朝日の“共謀罪” 加計学園問題」の2本の論考を掲載。規制改革推進会議・国家戦略特区ワーキンググループ(WG)委員の一人、八代尚宏は「Wedge」に「1つでも改革できれば全国展開 国家戦略特区と岩盤規制の闘い」を寄せているが、図らずも閉会中審査はここに列挙した保守派論壇を中心とした指摘が正しいことを裏付ける格好となった。

 左派マスコミが「行政が歪められた」とする主な根拠は、前出の文科省「メモ」と、「初めから加計ありきだった」「行政手続きが官邸の関与で歪められた」とする前文部科学省事務次官の前川喜平の主張だ。しかし、月刊誌の論考に特徴的なことは、メモは備忘録のようなものであるばかりか、そのメモによって、後から「総理の意向」を「でっち上げ」(高橋)て、内閣府と国家戦略特区WGとの規制緩和論争で敗れたことを正当化したものだ、と証拠能力を全面的に否定していることだ。

 論考の筆者らは、メモやマスコミ報道によってつくられた先入観を廃し、同WGヒアリングの議事録や、獣医師の需給現状や今後の見通しを総合的に判断している。その上での結論は、官邸の介入によって行政が歪められたのではなく、逆に岩盤規制によって守られてきた既得権益団体・大学に天下りでつながる文科省によって、半世紀以上も獣医学部が新設できないように歪められた行政を、安倍政権が国家戦略特区をテコに正したとしている。

 私も、昨年6月と9月の議事録を読んだが、文科省側が獣医学部新設を認めるべきでないとする挙証責任を果たさなかったことはすぐ理解できた。その後に書かれた問題のメモが何を目的とするのか。それは「総理の意向」だから、仕方がないと言い訳するためのもだったという分析は成り立つ。あるいは、そのメモの存在を公にすることで、何かを狙ったのか、という疑いを持ったとしても不思議ではない。

 もう一つ、左派の新聞・テレビと保守派の月刊誌とで対照的だったのは、渦中の人、前川に対する評価だ。「行政が歪められた」と訴えていることに対して、「勇気ある告発」あるいは「筋を通した」と評価する意見がちまたにはあるが、論考の見出しだけでも分かるように、論壇では、告発は個人的な恨みを晴らす行為とする分析がほとんどだ。それも単なる推測ではなく、具体例を挙げて、前川の告発動機に疑問を呈しているから、説得力がある。

 元国土庁長官官房参事の八幡は、2年前の新国立競技場建設をめぐる騒動を例に挙げている。この騒動では、文科省が建設を主導していたが、予算が試算を大幅に上回ったため計画は白紙撤回となり、仕切り役が文科省から国土交通省に移っている。この騒動を記憶する読者は少なくないだろうが、その時に経緯を検証する委員会の事務局長だったのが前川だ。

 加計問題では、前川の出会い系バー通いという醜聞も知られているが、それを注意した内閣官房副長官の杉田和博と、「総理は自分の口から言えないから私が言う」(前川の主張)と言ったとされる国交省OBで首相補佐官の和泉洋人は、新国立競技場建設問題で文科省を押さえ込む側だった。したがって、前川にとって杉田と和泉は「重要な権限と権益を取り上げた悪い奴だとして恨みを晴らす動機は十分にある」と、八幡は指摘する。この件については、八木も同じような情報提供があったとしている。

 月刊誌においても、前川を擁護する記事がある。教育ジャーナリストで、元読売新聞編集委員の中西茂の「古巣 読売の前川報道を批判する」(「文藝春秋」)だ。教育担当記者だったことから、中西は現役時代の前川を知っており、彼に好印象を持っていることは論考を読めば分かる。

 風俗店通いについて、前川は「女性の貧困調査」と弁明した。これについて、中西は「文科省の幹部と呼ばれる地位に就いてもさまざまな場所に熱心に足を運び、現場の声に耳を傾け、その立ち位置で話すから、時に部下は振り回されるが、……教育関係者に前川ファンは増えていった」と、前川の人格を高く評価し、風俗店通いの弁明に納得している様子なのだ。しかし、彼の論考からは、教育専門記者にありがちなナイーブさがにじみ出ており、その前川評価は割り引いて考える必要があるだろう。

 逆に、中西と同じジャーナリストでありながら、前川の風俗店通いを厳しく批判したのは、政治記者の阿比留だ。理由は幾つもある。①本当に貧困調査なら、どうして女性だけで男性は調査しないのか②30回も通わないといけないことか③調査を文部行政に生かして文書に残していたのか―などだ。それぞれもっともな疑問だ。他の論考では、部下に調査をやらせればいいという指摘もあった。

 そして「風俗店の多くは暴力団の資金源や、犯罪の温床になっています。それが教育行政のトップが足繁(しげ)く通っていたわけですから、それだけでもかなりおかしい」と指摘した。中西と阿比留の前川評価を比べると、阿比留の方に冷静さを感じる。

 このほか、月刊誌の中でも、左派の「世界」が反安倍政権のスタンスを取る識者3人による座談会(「国家戦略特区の実相とは」)と、日本教育学会の前会長、藤田英典の論考「加計学園問題の本質は何か」を掲載したが、「国家戦略特区が、政治家の私的な利益誘導などのために『活用』されている姿が浮き彫り」(座談会)、「京都府と京産大の獣医学部新設提案がアンフェアな扱いを受け不当に排除されることになった」(藤田)と、前川の主張に沿う内容だった。京都府と京産大は不当に排除されたのではなく、準備期間が足りないとして自ら断念したのである。

 加計問題をめぐっては、保守系が多い月刊誌がメモや前川の言動を根拠に安倍政権批判を繰り広げる左派新聞・テレビを鋭く批判していることで、マスコミの偏向報道の深刻さが改めて問われているが、マスコミが公器として責任や使命を蔑(ないがし)ろにし、倒閣運動に前のめりになる報道を続けることは国民の判断を誤らせることで、これは野党の劣化以上に危険な事態である。(敬称略)

 編集委員 森田 清策