親韓派日本人の韓国離れ 「反日」背後に左派勢力

日韓共通の「敵」再認識すべき

 日本と韓国は22日、日韓基本条約調印から50周年を迎えた。これに合わせ、月刊誌7月号には日韓関係や歴史認識についての論考が並んだ。論考の見出しを列挙するだけで、紙幅が尽きてしまいそうな分量だ。

 保守系の「正論」は特集「日韓国交50年の幻」を組んでいる。同じく保守系の「Voice」は総力特集「日米VS中韓」と銘打って、誌面展開。「潮」は「日韓関係の未来」、左派の「世界」も「日韓国交正常化50年」を企画した。

 日韓の両政府が22日に、東京とソウルで開催した記念式典には、安倍晋三首相と朴槿恵大統領がそれぞれの会場に出席し、両国関係の重要性を指摘するなど、関係改善につながる前向きな変化が出てきた。

 そんな中で、論壇にも変化が見える。これまでは韓国の「反日」の動きに焦点を合わせた論考が多かったが、ここに来て反日に対する反発として強まった日本人の「嫌韓」感情を憂える論考が目立ってきた。

 「正論」は特集の一つとして、前駐韓国特命全権大使の武藤正敏と、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘の対談「前駐韓大使がここまで語った韓国への諫言」を掲載した。武藤は今年5月、いわゆる従軍慰安婦や領土問題を中心に亀裂を深める日韓関係をテーマにした本「日韓対立の深層」を上梓している。

 対談の中で、黒田は「いまは日本の嫌韓・反韓感情のほうが韓国側の反日感情よりも強くなっています。特にいわゆる親韓派といわれる人々の多くが韓国離れしていて、事態は深刻です」と分析している。

 日本の保守層における嫌韓感情が強まった要因としては「韓国と長く付き合って愛情を感じ、もっと韓国を知り、理解すべきだと提言してきた結果がいまの日韓関係であり、みんな韓国の現状に気落ちしている」と、背景に反日を続ける韓国に対する失望感があると指摘する。

 一方、2012年10月まで大使だった武藤。韓国の反日感情は政治、メディア、一部NGOなどに限られた現象で、「一般国民の対日感情はそれほど悪くはありません」とした上で、「今は韓国の反日よりも日本の嫌韓のほうが強くなっている、ということです。こちらも手当てしないと日韓関係は良くならない」と、黒田と同じ認識を示す。

 国交正常化50周年に合わせて来日した韓国の尹炳世外相はNHKのインタビューで、従軍慰安婦問題について「きちんと解決すれば、これ以上、再び議論される理由はない」と語ったが、この発言を聞いても、問題解決に楽観的になる日本人は少ないだろう。日本人の嫌韓感情は常態化してしまったと考えたほうがいいのかもしれない。

 そこで、日韓関係の改善における韓国側の課題として論壇で指摘されるのは、多数の一般国民ではなく「左派系NGO」(黒田)に政府が振り回されている国家状況だ。黒田は「NGO国家となった韓国が、もう一度国家としての権威を取り戻して、日本と外交決着を図る意志を持てるかどうか」とみる。

 武藤は、竹島問題が将来解決に向かうための要素の一つとして、こんな発言を行っている。「一つは、韓国に日本は重要な国だと再認識してもらうこと。この問題で激しく日本と対立するのは韓国の国益に反すると悟らせること」。これは、日本側の課題として、正鵠(せいこく)を射た指摘だろう。

 慰安婦をはじめ朝鮮半島問題についての発言で知られる東京基督教大学教授の西岡力も「心配なのは韓国人の反日ではない。(省略)心配なのは日本人の嫌韓だ」(「正論」=「韓国版極左史観が生む反日と嫌韓の連鎖」)と懸念を示す。黒田や武藤と同じように、韓国の反日は実質それほど強いものでないとみている。ただ、西岡はさらに踏み込み「北朝鮮とそれにつながる左派勢力によって人工的に作られたもの」で「韓国の反日の背後にある政治工作を見ず、その理不尽さをすべて韓国人の民族性・国民性に還元する議論の拡散を私は心配し続けている」という。

 そして「日本人の嫌韓感情を作り出した主犯として、北朝鮮と韓国内左派勢力、そしてそれを煽る日本国内の反日日本人らが作り出した『韓国版自虐史観』あるいは『極左的民族主義歴史観』を提示する」と結論付け、日韓の共通の敵はどこの国なのかを再認識できれば、歴史観や領土問題で譲歩し合い「50年前朴正熙大統領が築いた日韓友好関係に戻ることは十分可能だ」と訴える。(敬称略)

 編集委員 森田 清策