辺野古埋め立てを妨害、地元2紙が「赤旗」同様に
《 沖 縄 時 評 》
◆翁長革新県政で基地闘争過激化
「沖縄の新聞はどこかの反戦、反基地団体の機関紙みたい。どこの面を開いても過激な基地反対報道がいっぱい。対立や反対闘争だけをイメージさせる生臭い地域(観光地)のようで、そんな報道は怖い感じがする。観光はやはり落ち着いた雰囲気で味わいたい」
こうした言葉は、とくに初めて沖縄を訪れた国内観光客からよく聞かれる。筆者のみならず、地元の何人かは観光客の口から洩れる嘆息を耳にしている。
観光客だけではない。実際、「オール基地問題」を年中行事のごとくキャンペーンする地元メディア(「琉球新報」と「沖縄タイムス」が中心)の紙面づくりに内心、ウンザリしている県民も多いのである。
まず、新聞2紙が、沖縄本島北部に位置する名護市辺野古崎の一部沿岸埋め立て工事の反対記事を載せない日はない。「辺野古ドキュメント」(新報)、「辺野古の動き」(タイムス)と銘打って毎日、必ず掲載している。それも「埋め立て反対、工事撤回」へと巧みに世論誘導しながら報じるのが特徴だ。
1月27日付の両紙は、前日26日に立ち上げたばかりの辺野古埋め立て承認を検証する有識者委員会(第三者委員会、後述する)とも関連させ、昨年12月に誕生した翁長雄志革新県政の安慶田光男副知事が沖縄防衛局に「海底ボーリング調査中断を要請した」と報じた。これに対し防衛局側は「(米軍)普天間飛行場の1日も早い危険性除去のため、代替施設に係る作業を進めている」と回答、引き続き海上作業を進める考えを示している。
ここで少しいわゆる「辺野古問題」をおさらいしておこう。
本紙でもこれまで再三報じられているが、沖縄本島中部の宜野湾市に現存する米軍普天間飛行場(480㌶)は、住宅地に密接して危険性が高いと指摘され、このため、日米両政府の合意に基づいて辺野古キャンプ・シュワブ域内に代替施設(160㌶)をつくって移設される計画である。代替施設は普天間飛行場の3分の1に縮小されており「実質的な基地の縮小、負担軽減につながる」と冷静にみる県内識者の声も聞かれる。
工事を所管する沖縄防衛局は先ほどの回答にみられるとおり、辺野古移設に反対する猛烈な抗議行動(海上と陸上)を避けて、現在海底ボーリング調査などの海上作業を進めている。この作業工程は、移設計画の一環である辺野古沿岸部の一部埋め立て工事に向けたものだ。
2013年末に仲井真弘多前知事が埋め立てを承認、また、地元の名護市辺野古3地区(辺野古、久志、豊原)の住民や漁業協同組合の多数が移設計画に賛意を示している中で、作業は「法令と県の承認にそって粛々と進められている」(菅義偉官房長官)のが実情だ。
◆抗議の実態は悪質
ところが、普天間の代替施設を「新基地建設」と称する革新諸党派(日本共産党や社民党が主流および反戦・反基地諸団体・他府県の過激派左翼集団が多数混入)は、「市民」を名乗って連日連夜抗議行動を展開する。陸上では資材搬入車両阻止でキャンプ・シュワブゲート前の座り込み、辺野古崎海上ではカヌーや船団を組んだ妨害等、海上作業の中止に向けあらゆる手段が使われる。
辺野古住民によると、抗議参加者は徒党をくんで公民館のトイレを利用しても「お礼の一言すらない」という。資材搬入車両の前にわざと両足を突き出して「さあ、轢いてくれ」との態度らしい。海上では海上保安庁職員にわざと体当たりして「ケガを負わされた」と怒鳴ったりする。
危険な抗議行動に対して警察や海保が随時取り締まるが、当局に対して地元の新聞2紙の見出しや内容は例によって「暴力、過剰警備」「怒り、ケガ人出る」「市民を不当拘束」などの活字が一方的に躍る。当局の「安全確保のため」というコメントは片隅に載るだけだ。
報道各社の社是で謳(うた)う「不偏不党」とか「公正・中立な報道」といった新聞本来の報道姿勢は、紙面を見る限り感じられない、と指摘せざるを得ない。まるで抗議行動の一団に変じたかのような紙面づくりになっている。
具体例を挙げてみよう。
2月3日付の沖縄タイムス社会面トップの主見出しは「いつか死者出る」と、きわめて刺激的、センセーショナルな表現が使われた。海上作業に抗議するカヌー隊の8人が海保に沖合いリーフ(礁湖)で連行され、その後、解放されたとの記事で、「危険。いつか死者が出てしまう」と抗議した男性の弁を見出しに採用した。
海保側のコメントは「海上の安全と法令敢行の観点から適切に警備を行っている」というものだが、扱いが小さい。
かの中東のテロ組織「イスラム国」によって日本人人質2人が「殺害」され、国民全体が「死者」報道に過敏になっている状況下で「いつか死者出る」の大見出しである。観光客どころか、地元の人間ですら目を剥(む)くような紙面づくりといえないだろうか。
これより前、1月31日付の琉球新報社会面トップは、「国交相 安全のため」の主見出しで、海上作業の抗議船に乗っていた女性の肩に海保職員が馬乗りになった、と問題視した。衆院予算委で問題を質した赤嶺政賢議員(共産)に対して、太田昭宏国土交通大臣(公明)が「写真の見方だろう。小型船の縁にいた女性の体を保持するため」と安全確保の観点を強調した答弁を批判的に取り上げた記事になっている。
同じ日の予算委質問で中谷元・防衛相は埋め立て承認手続きについて「丁寧に環境アセスも実施しており、法的に瑕疵があったとは考えていない」と答弁した。
さらに安倍総理は、新基地反対を掲げて知事選挙(平成26年11月16日)に当選した翁長雄志知事との面会に対し「総選挙などもあり私も菅官房長官も面会の機会はなかったが、政府としてはしっかり対応している」と、政府が翁長知事を「冷遇」したことを否定し、「ほかに道はない。辺野古移設は沖縄の(基地)負担軽減に十分資する」と断言した。
◆共産党詣でる知事
ところで、昨年12月に知事に就任した翁長氏の動向に触れてみたい。
知事当選から就任後の昨年12月下旬、翁長氏は就任あいさつのため上京、安倍総理や菅官房長官をはじめとする関係閣僚に面会を求めた。だが、衆院総選挙後の組閣や次年度予算の取り組みのため、政府も自民党の幹部たちは大忙し。時節柄、沖縄の知事に面会する時間的余裕はなかった。関係者によると、知事サイドのアポイントメント(会う約束)のとり方にかなりの問題があった。
「永田町、霞が関が一番忙しい時期、しかもアポなしで会おうというのは乱暴すぎる」
「重要な基地問題を抱える沖縄県知事ならいつでも閣僚に会える、と安易に考えていたのではないか」――関係者の間ではそういう声が聞かれたという。地元メディアがことさらに書き立てた「冷遇」の背景はそんなところだ。
関係者によると、もう一つ引っかかる話がある。
上京した翁長知事が真っ先に訪ねたのは、渋谷区にある日本共産党本部だった。
志位和夫委員長ほか幹部や党員ら多数から熱烈歓迎を受け、知事は大満足の様子だったようである。
そんな知事の行動が煙たがられたかどうか、自民党や公明党の幹部クラスはついにだれひとり面会がかなわなかったのが真相に近いとされる。
共産党との急接近、蜜月関係をみると、翁長県政の実態がハッキリしてきたような気がする。共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版には毎号沖縄関係記事が掲載されている。新年合併号では見開きの「新春座談会」に衆院議員の赤嶺(共産)、仲里利信(無所属)、那覇市議会議長の金城徹の3氏を登場させ、知事選・衆院選での「オール沖縄」の勝利を持ち上げた。2月1日号は2面トップで「辺野古新基地 承認取り消しへ検証」「翁長知事が第三者委」の見出しを掲げ、承認取り消し・撤回が視野に入ったと伝えた。
◆第三者委は不透明
知事の私的諮問機関として1月26日に発足した「第三者委員会」は、法曹関係3弁護士、環境分野の有識者3人の計6人が就任する予定になっている。辺野古埋め立て承認に至る行政手続きなどに法的な瑕疵(かし)がなかったかどうかを検証しようというものだ。
第三者委員会は、知事が望む6人のうち、法曹関係の3人を除くと、環境分野の識者は1人しか決まらず、与党議員団から急(せ)かされての「見切り発車」と評される(県庁関係者)。環境専門家の1人である桜井国俊沖縄大学名誉教授は、東大出身で反公害運動の先頭に立った宇井純氏(故人)のグループにいた人物だ。
第三者委だが、いつまでに結論をまとめるか不透明で、法的瑕疵が見つかるのか見つからないかも結論を待つしかない。仮に瑕疵があったとしても「埋め立て承認取り消しが可能か否か」など法的拘束力も含め未知数の部分が多い。辺野古新基地反対だけで共産党と「一点共闘」した翁長県政は早くも正念場に立たされた。ある県庁幹部は、「埋め立て承認までに慎重に時間を掛けてやってきた。行政手続きに齟齬はないはずだ」と、法的には十分にクリアしていると言い切った。
(OKINAWA政治大学校名誉教授 西田 健次郎)







