免疫力を強める 「前向きな心」で活性化
月刊誌6月号の新型コロナウイルス特集で、科学者の視点からの論考も多かった。その中で、新型コロナとの戦いが長期化する中で、重要になってくると思われるのが「免疫」についての知識だ。
「最後は『集団免疫』しかない」と題した論考(「文藝春秋」)の冒頭で、「新型コロナウイルスとの戦いで、人類は苦戦を強いられていますが、最初に宣言しましょう。この戦いは必ず人類が勝利します。これは間違いありません」と断言するのは順天堂大学医学部免疫学特任教授の奥村康。
免疫とは「人間の体に備わっている抵抗力」のことで、「自然免疫」と「獲得免疫」の二つあるが、奥村は「人口のうち一定割合の人がこの免疫を身に付ければ、ウイルスは感染を拡大することができなくなり、自然に収束に向かうことになります。これが『集団免疫』です」と説明する。
免疫を獲得する手段は二つあり、一つはウイルスに感染することで、もう一つがワクチンを打つこと。このため、現在、多くの国でワクチン開発が進められているが、最低でも1年以上はかかるとみられている。
それまでは、自分の免疫力に頼るか、治療薬の開発に期待するしかないわけだが、他国のようなロックダウン(都市封鎖)を行わない日本で死亡者数が圧倒的に少なくなっている理由として考えられていることは、手洗いなど体を清潔に保つ習慣が一般化していることのほかに、集団免疫によるのではないか、という説が出ている。
つまり、日本では、早い段階で新型コロナに感染した人が多く、既に集団免疫が成立していたのではないか、というのだ。しかし、これはまだ説の段階だ。
それとは別に、総合研究大学院大学学長の長谷川眞理子は①医療体制の充実②医療現場の練度が高い―のほかに、「推測」と断りながら「日本人が新型コロナウイルスに対する何かしらの耐性をもっているかもしれない」と指摘する(「野放図な資本主義への警告だ」=「Voice」)。
一方、「新型コロナウイルスに感染しても多くの人が軽症で済み、安静にしているだけで治るのは、この『自然免疫』の力によるものです。逆に高齢だったり、基礎疾患をもっていたりして『自然免疫』の力が弱い人は、重症化することが多い」と説明するのは、麻布大学名誉教授の鈴木潤(「知識と免疫力で感染症を正しく恐れる。」=「潮」)。
コロナの第2波に備える「新しい生活様式」定着のポイントは、いわゆる「3密」(密閉空間、密集場所、密接場面)を避けることだが、これは感染しないための対策。しかし、感染リスクをゼロにすることは不可能なので、感染してもウイルスに負けないように免疫力を高めるための努力が必要だ。
そのためのポイントについて、鈴木は「睡眠、栄養、保温」の三つを挙げる。そして、運動がこの三つの質を上げる上で有効。なぜなら、「運動をすると体が温まり、食欲が湧き、眠りの質も高まるから」。
最後に、鈴木は自然免疫を活性化させる上で重要なのが「前向きな心」と「笑い」だという。自然免疫を健全に機能させるには自律神経の安定が必要で、「そのためにはストレスをためず、規則正しく、おだやかな日常生活を送ることが何より大切」。また「笑顔も免疫力を高めます。笑いによる脳への刺激が、免疫機能を活性化するホルモンなどの生理活性物質の分泌(ぶんぴつ)をうながす」。
さらに「困難に直面しても笑顔を絶やさず、周囲を励まし、笑顔の輪を広げていく。そんな言動が、社会全体の防疫力を上げていくことになる」と強調する。不安、恐怖、怒りを煽る情報は、人をパニックに陥れるだけでなく、免疫力を弱めるという意味でも有害というわけだ。(敬称略)
編集委員 森田 清策