新型肺炎で露呈したもの 中共独裁の隠蔽体質
日本の有事対応に重大欠陥
新型コロナウイルスのニュースであふれ返り、パニックのような状況が起きる中で、この欄で新型肺炎以外のどんなテーマを取り上げたとしても、読者の関心は引かないなと迷っていたら、26日発売の保守系の「Hanada」と「WiLL」の4月号がこのテーマで大特集を組んだ。
それぞれ「新型肺炎の猛威と習近平独裁」「習近平よ、世界に向けて詫びの一つも言ってみろ!」と銘打っている。日ごろから中国を厳しく批判する両誌だけに当然のことではあるが、新型肺炎で世界中が混乱するこの時ぞとばかりに、共産党一党独裁体制の宿痾(しゅくあ)をあぶり出している。
中国共産党の最大の欠陥として常に挙げられるのが「隠蔽(いんぺい)体質」だ。それについては、特集外のコラムだが、産経新聞ワシントン支局長などを務めた湯浅博の論考「文明の不作法 ビッグ・ビラザーに温情はいらない」(「WiLL」)の次の部分が明快に示している。
「クレアモント・マッケナ大学のミンシン・ペイ教授に言わせると、ウイルスの早期封じ込めができないのは、『一党独裁の存続が秘密、メディアの弾圧、市民的自由の制約にかかっているからだ』と全体主義の宿痾であることを指摘する」。共産党の権威を守ることを何より優先させる体質が世界を大混乱に陥れたというわけだ。
だが、共産党独裁の宿痾はそれだけではない。情報隠蔽がもう無理だと判断すると、病原菌対策を逆手にとって、「国内に張り巡らされた人々の監視機能」を使って、国民に対する監視を強化する。
その結果、出来上がるのは人権が踏みにじられる「まるで、作家ジョージ・オーウェルが描く小説『1984年』の陰鬱な世界」(湯浅)である。そして、新型コロナウイルスを抑え込むことに成功したときには、世界の犠牲と混乱への責任を棚上げにして、自らの政治体制の“勝利”として宣言するのであろう。
既に中国のメディアは日本や韓国の対応について「行動が遅い」と批判し始めている(産経新聞2月26日付)。自分のことは棚に上げ、恥も外聞もなく他者を批判するのも共産党体質の一つと言える。
中国が「1984年」のような世界にしようとしていることは、ジャーナリストの櫻井よしこもその論考「人類が目撃した『異形の大国』の本性」(「Hanada」)で指摘している。また、櫻井が中国の野望である「世界の中国化」の象徴として取り上げたのが世界保健機関(WHO)の「所有」だ。
WHOの緊急事態宣言が遅れたことや、テドロス事務局長が中国の対応を賛美する発言を繰り返すのもその証左だが、特に同事務局長はエチオピア出身であることが、中国による“WHO所有”を見る重要ポイントだ。
「エチオピアは巨大経済圏構想『一帯一路』のモデル国家として、鉄道や電力供給などで中国からインフラ投資を受ける一方、多額の債務にも苦しんでいる。母国を人質にとられ、中国の言うことを聞かざるを得ない」ことが、中国によるWHO所有につながっているというのだ。
また、中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉の論考「新型肺炎パンデミック 真犯人は習近平」(「Hanada」)は、習国家主席とテドロス事務局長が「入魂(じっこん)の仲」であることや、WHOの緊急事態宣言が遅れた経緯について、詳しく解説していて興味深い。
新型コロナウイルスの発生源はいまだ確定していないが、ジャーナリストの福島香織(「各地で多発『武漢人狩り』の冷血」=「WiLL」)や、ノンフィクション作家の河添恵子(「武漢天河国際空港で行われた対生物戦争緊急訓練」=「WiLL」)など複数の論者が、当初発生源とされた武漢の海鮮市場近くにあるウイルス研究所から漏れたという「生物兵器説」を紹介している。
特に、河添は昨年9月、武漢天河国際空港の税関で「コロナウイルスの感染が一例検出された」との想定で、緊急訓練されたと現地メディアが報じたことを伝えており、それもまた無視できない情報だ。しかし、現段階では状況証拠は幾つかあるが、まだ臆測の域を出ていない。それでも、「こうした言説が流れてしまうことに中国の“危うさ”が見て取れる」という福島の指摘は説得力を持つ。
こんな危険な体質を抱える中国共産党そのものについては、国際政治学者の島田洋一は次のように訴える。「およそ自由主義理念に拠って立ち、人権を重んじる政治家なら、今回のウイルス問題を奇貨として、いかに中共独裁体制を崩壊させるのかの戦略を練り、実行に移していかねばならない」(「天下の大道 チェルノブイリとウイルス」=「WiLL」)。世界を混乱に陥れている一つの疫病がこの指摘に説得力を持たせ、歴史の転換を予感させることも強調しておきたい。
翻って、わが国の対応だ。米国などのように、中国からの入国禁止を取れなかったことについては、保守派の多くの論者が習主席の「国賓」来日など中国への忖度(そんたく)があったのではないか、と安倍政権に厳しい指摘を行っている。「初動対応が甘い」「泥縄対策」との批判に一理あるが、その一方で、月刊誌3月号で、新型肺炎の特集を組む雑誌がなかったのを見ると、論壇でも問題がここまで深刻化するとは予想していなかったのではないか。
一方、産経新聞論説委員の阿比留瑠比は、武漢のある湖北省や浙江省などの特定地域への滞在を理由にした入国拒否措置を取ったのは初めてのことであったし、それについてさえも、法務省は当初、「根拠法がない」と難色を示したことを紹介。その上で、「政府や首相に権能を集中させる憲法上の大きな枠組みが必要です。結局、日本国憲法が有事を想定していないことが最大の問題」(「この非常時に公共が人権にひれ伏してどうする!」=「WiLL」)と、憲法への緊急事態条項の盛り込みの必要性を説いている。
新型ウイルス対策について、専門家の論考としては、元厚労省医系技官で、現在パブリックヘルス代表理事の木村盛世の「危機を招いた厚労省の重大欠陥」(「Hanada」)がある。初動態勢の遅れについて、木村は「有事(緊急事態)と平時の態勢の区別が曖昧(あいまい)で、その結果、危機管理という概念が極めて希薄なシステムになってしまっていること」と、厚労省の「責任者不在」が「二大原因」と強調する。
具体的には、感染症に対する法律は検疫法と感染症法があるが、前者は「国内に常在しない感染症が国内に入ることを防ぐための法律」で、厚労省の出先機関の検疫所が活動主体。後者は国内で感染症対策を行うためのもので、活動主体は地方自治体。このすみ分けの違いが、今回のような非常時における迅速な対策を難しくしているというのである。
米国には、防疫のプロ集団「疾病管理予防センター」(CDC)があり、新型肺炎対策でも存在感を発揮している。日本でもCDCのような組織を創設すべきだとの声が上がっているが、木村は「新たな箱モノをつくっても根本的な問題は解決しない」として否定的だ。厚労省の無責任体質が変わらなければ同じで、それよりも、現在ある感染症研究所を充実させた方が有効だと提言する。
他誌に先駆けて4月号を発売している2誌は、その保守派のスタンスから中国共産党批判の論考が多かったが、これから発行される他の月刊誌には、安全保障の観点から新型感染症から日本人を守るための方策について、さらなる提言を期待したい。(敬称略)
編集委員 森田 清策