スマホによる脳破壊 毒性は「麻薬」レベル
情報封鎖に遭う川島氏の論文
スマートフォン(スマホ)が普及し生活必需品となるに伴い、その過剰な使用の弊害がさまざまな場面で表れている。
例えば、自動車の「ながら運転」。この問題への対応は、罰則が強化された上、一定の速度が出ると、スマホが使えなくなるアプリも登場するなど、一応進んでいる。
非常に深刻なのに、対応が難しいのは子供の学力低下だ。経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査(PISA、79カ国・地域の15歳が対象で2018年実施)で、日本は「読解力」が前回15年調査の8位から過去最低の15位に後退した。
その要因の一つと考えられているのが、子供のスマホ使用の長時間化。単純に考えれば、スマホ使用に時間を奪われれば、その分、読書量が減るから、読解力の低下とスマホ使用に関連性があると推測できる。その上、スマホ使用で脳が破壊されることを示す研究結果も出ているのだから、その弊害は一般の認識以上に重大である。
ながら運転の場合、命に関わることであり、その危険性は誰にでも理解されやすいので、防止のための厳罰化が進んだ。しかし、子供のスマホ使用の弊害については、まず大人が認識しなければ対策は進まないから、その危険性を社会に知らせるメディアの役割が重要となってくる。
何せ、通信事業者はスマホ使用を促進するために、あの手この手を使い、消費者心理を刺激している。加えて、買い物や列車・バスの乗車料金の支払い、友人同士の連絡など、社会のさまざまなシステムがスマホの存在を前提に構築されており、現在のような状況を放置しておけば、スマホ使用の長時間化に歯止めをかけるのは難しい。成人してからスマホを持った世代でもそうなのだから、子供ならなおさらだ。
この分野における研究の第一人者、東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太は、「Hanada」2月号の論考「スマホが子供の脳を破壊する!」で、子供のスマホ長時間使用が脳の発達に悪影響を与えていると警告するとともに、そうしたスマホ使用の危険性についての論文を取り上げない新聞・テレビの構造的な問題点を指摘し、メディア批判も行っている。
学習時間、睡眠時間に関係なく、スマホを1時間以上使用している子供の学力は下がることを既に明らかにした川島だが、この論考では、子供の脳発達をMRIで計測する調査(18年)を行ったことを紹介している。
その調査の結果、ネット使用が多い子供はそうでない子供に比べ、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、小脳など広範囲に大脳皮質の体積があまり増加していないことが分かり、「スマホの長時間使用によって、脳の発達が止まっていた」と結論付けた。
だが、こうした研究を論文にまとめ、記者会見を開き公表しても「新聞もテレビも通信事業者や通信機器メーカーから広告費をもらっているからでしょうか、見事に情報封鎖され、まったく取り上げてくれなかった」と、新聞・テレビに対する不信感をあらわにしている。
また、「スマホに関する論文は『どう有効活用するか』という研究ばかりで、その危険性を指摘するものは極端に少ない」と嘆くとともに、「子供たちの未来よりもお金を優先する、資本主義社会の成れの果てを見たような気がしました」と、商業主義の弊害も訴えた。スマホ使用の悪影響についての報道封鎖については、マスコミが製薬会社の広告欲しさに薬の副作用についての報道に及び腰になるという構図に似ている。
論考は昨年、仙台市内の小学3、4年生を対象に行った新しい調査結果にも言及。この年代では、約6割がスマホ所持しており、そのうち4割は1時間以上使用しているが、そんな子供たちは「どれだけ勉強しても、適切な睡眠をとっても、平均点を超えなかった」。これもスマホの長時間使用で脳の発達が止まっていることの証左であろう。
さらに興味深いのは、この年代では小学5年生よりもスマホ所持率が高く、使用時間も長いことだ。それは、この年代はちょうどスマホが出た時期に生まれており、「スマホ・ネイティブ」世代だからだ。
「彼らは生まれたときからスマホに接しており、使いこなすことができるから使用時間も長くなる。しかし、その影響は先に示したように、年齢が上の子たちよりも深刻です」
電車に乗った時、周囲を見れば、大人でさえもスマホの画面にくぎ付けになっている。スマホ・ネイティブの子供であればなおさらだろう。そんな世代もいずれ成長し、社会を担うようになるのだから、国が早急にスマホ使用に規制をかけるくらいのことをしなければ手遅れになる、と警告するのは大げさでない。
スマホ使用によって、なぜ脳の発達が止まるのか。その詳しいメカニズムは分かっていないが、川島は考えられる理由として二つ挙げている。一つは、スマホ利用である種のリラックス(弛緩(しかん))状態が続き、そこから悪影響が出る。もう一つは「メディア・マルチタスキング」の影響だ。
メディア・マルチタスキングとは、複数のメディア機器を同時に使用すること。最近は、スマホのアプリを複数切り替えて使うことも含めて言われるようになっている。要するに、「二つ以上のことを同時並行に行おうと思えば脳に負荷がかかり」、悪影響が出るというのだ。
そのいい例がLINEで、これを使う時は、何かをやりながらメッセージのやりとりをする場合が多いから、その弊害について実感する大人も多いはず。結論として、川島は「調査を進めていくと、スマホの毒性は、もはや『麻薬』レベル。一刻も早く、スマホの危険性に社会は気づくべきです」と警鐘を鳴らす。
以上のようなことから、この問題の解決策として、川島は「一時間以上使用すると、家族などとの緊急連絡以外には使えなくするアプリ」の開発を提案している。技術的には難しいことではないので、筆者も実現を期待するが、子供が自主的にそんなアプリを使うとは思えないので、まず保護者がスマホ長時間使用の危険性を知ることが不可欠だ。
川島の新しい研究についての論文はまだ発表前で、今後、その詳しいデータが公表されるだろう。しかし、新聞・テレビによる情報封鎖が待ち構えている。これを打ち破るためにも、月刊誌が積極的にこの問題を取り上げるべきだろう。
川島は「スマホを使うことで遺伝子発現のパターンがどのように変化するのかまで調査し、スマホが脳を破壊するメカニズムを明らかにしよう」と考えているそうで、そちらにも期待したい。(敬称略)
編集委員 森田 清策