「表現の不自由展」論争

「検閲」の罠に陥った大村知事

 政治色の強い作品への抗議が殺到したことで、企画展「表現の不自由展・その後」が一時中止されたことで注目を集めた国際芸術際「あいちトリエンナーレ」が終了してから1カ月半が経過した。それでも、月刊誌12月号および1月号では「表現の自由」と「検閲」をめぐる論考が目立つ。この問題については、左右両派で論争が続くが、右派論壇は、反体制的な政治プロパガンダ作品が公共事業で、公益性からチェックされたとしても「検閲ではない」と主張してる。

 弁護士の北口雅章氏の「大村愛知県知事の独善を斬る」(「正論」12月号)、河村たかし・名古屋市長と作家の門田隆将氏の対談「マスコミが報じない『表現の不自由展』の不都合な真実」(「Hanada」12月号)、作家の竹田恒泰氏とユーチューバーKAZUYA氏の対談「天皇侮辱展示 付け火してはしゃぐゲイジツカたち」(「WiLL」1月号)などだ。

 「あいちトリエンナーレ」の企画展が一時中止・再開するという混乱で浮上した課題は、大村秀章・愛知県知事と河村氏との「検閲」をめぐる論争に集約される。前者は芸術祭実行委員会会長、後者は同会長代行だ。

 昭和天皇の肖像をバーナーで燃やし、その灰を踏み付ける動画や元慰安婦を象徴した「平和の少女像」など「反日」思想を思わせる展示物について、河村氏が「日本国国民の心を踏みにじる」として抗議の声を上げた。それについて大村氏が「表現の自由を保障した憲法21条に違反する疑いが極めて濃厚」と批判していた。

 大村氏の憲法解釈の間違いについては、河村氏が「名古屋市主催の公共事業だからまずいと言っているだけで、作家に『日本人を侮辱するような作品はつくるな』などとは一度も言っていません」(「朝日と中日への公開質問状」=「Hanada」1月号)と語っていることで、概(おおむ)ね言い表されている。

 一方、北口氏は「作品の『ハラスメント』性の問題が、もっぱら『芸術』性ないし憲法が保障する『表現の自由』の問題にすり替えられた」と強調した。大村氏が芸術監督の津田大介氏に「少女像は何とかならないか、やめてくれないか」と懸念を伝えていたことでも分かるように、展示物のハラスメント性は明らかで、大村氏はそんな展示物を正当化するために憲法を持ち出したのだろう。

 昭和天皇に関する作品については、大村氏にも事務局にもその存在すら知らされていなかった。しかし、「検閲」をテーマとする企画展に、たとえ実行委会長でも口出しすることは、自家撞着(どうちゃく)になる。企画展に抗議が殺到したことで、一端中止したものの再開したのは、中止したままではこれも「検閲」と捉えられてしまうのだ。検閲をテーマにした企画展の“罠(わな)”に、大村氏がはまったことで企画展の中止・再開というドタバタ劇が生じたと言える。

 編集委員 森田 清策