『反日種族主義』を読む 日韓の連帯に資するか

隣国理解深める実証研究

 日韓両国で発売されベストセラーになっている『反日種族主義』(日本では「文藝春秋」が出版)を読み、両国民が竹島・慰安婦・徴用工問題などに真摯(しんし)に向き合い、それぞれが認識ギャップを埋める契機になるかもしれないとの期待を持った。

 韓国では、家族のスキャンダルで辞任した曺(チョ)国(グク)前法相が「吐き気がする親日」と、韓国人研究者6人による同書を酷評したという。しかし、日本の保守派論壇では、非常に評価が高い。それは、日本側の主張に近いというだけでなく、近現代のトピックスについての実証主義的研究や、自由民主主義を守るために両国の「自由市民の連帯」を呼び掛けているからなのだろう。

 月刊「文藝春秋」は11、12月号と連続して、同書の編著者、李(イ)栄薫(ヨンフン)・ソウル大学元教授(経済史)をはじめとした著者にインタビューした。このほか、「Hanada」1月号は「総力大特集」として「文在寅の『反日種族主義』」を企画。また、「WiLL」「正論」も1月号で同書に言及する論考を掲載するなど、保守論壇の関心の高さを示す。

 慰安婦の強行連行説を「最も深刻な誤解」とし、独島(竹島)は「韓国人を支配する反日種族主義の熾烈な象徴の最たるもの」と指摘するなど、よくぞここまで日本の主張に近い結論を導き出したものだと、その学者としての矜恃に胸を打たれた。ただ同書の内容を鵜呑(うの)みにするのではなく、日韓両国民がそれぞれの近現代史を学び直すきっかけにすべきだとも思った。

 同書が扱った数多くのテーマについてその内容を紹介する紙幅はないので、ここでは主に「反日種族主義」について説明しよう。種族主義とは聞き慣れない言葉なので、少し長くなるが、同書における李栄薫氏の説明を紹介する。

 「個人は全体に没我的に包摂され、集団の目標と指導者を没個性的に受容します。このような集団が種族です。このような集団を単位にした政治が『種族主義』です」。そして、「韓国の政治はこの種族主義の特質を強く帯びている」という。

 さらに、種族主義とシャーマニズム(呪術)と物質主義は「お互い深く通じ合って」いる。その関連性につては「長期的かつ巨視的に物質主義の根本を追求して行くと、韓国の歴史と共に長い歴史を持つシャーマニズムにぶつかり……シャーマニズムの現実は丸裸の物質主義と肉体主義」で、その集団が種族や部族だ。

 種族は隣人を悪の種族と見なし「客観的議論が許容されない不変の敵対感情」を持つことから嘘が善として奨励され「種族を結束させるトーテムの役割」を果たすというのだ。このため、この種族主義から「幻想としての歴史」が生まれるとともに、必然的に「反日」になる。そこに社会主義が結合して生まれたのが北朝鮮だという。

 日韓の間で現在進行中の課題に、徴用工賠償判決、戦略物資の管理厳格化、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」問題があるが、歴史認識の違いや貿易問題を自国に有利にするために、安全保障をテコに使うというのは、日本人には理解し難い。しかし「親日精算」を優先課題とする文在寅政権にとって、GSOMIA破棄はそのためのトーテムになっていると考える、と分かりやすい。

 また、「文藝春秋」12月号で、著者の一人、金(キム)容三(ヨンサン)氏は重要な指摘を行っている。反日感情には「韓国人に漠然とある感情」のほかにもう一つあり、それは「北朝鮮側が長らく『日本を攻撃せよ』という指示を韓国側に働きかけ」ことで煽られたもので、それは「親北左翼である『主体思想派』の中枢にいた元活動家から複数回聞いた話」だという。

 筆者なりに咀嚼(そしゃく)して言えば、これ以上、嘘(うそ)によって敵対感情を煽(あお)る種族主義に振り回されば、韓国は亡国の道を歩むことになると警告しているのが同書である。

 編集委員 森田 清策