世界を汚染する薬物乱用

対策のカギは「正しい知識」

フランスの専門家ロベール・ガリベールさんに聞く

 元プロ野球選手の清原和博容疑者の薬物事件が社会に波紋を広げている。有名人だけに青少年に与える影響も大きく、防止教育の重要性が改めて浮上する。このほど講演のために来日した「薬物のない世界のための財団」フランス支部代表のロベール・ガリベールさんに、効果的な防止教育のあり方などについて聞いた。(聞き手=森田清策)

防止教育に予算投入を

 ――フランスでは現在、薬物問題で何が一番の課題か。

 大麻(マリフアナ)だ。フランスだけでなく、世界中で問題になっている。

「薬物のない世界のための財団」フランス支部代表のロベール・ガリベールさん

「薬物のない世界のための財団」フランス支部代表のロベール・ガリベールさん

 ――その原因は。

 人々が大麻の危険性について知らないことが一番の原因だ。いま、世界中で薬物をいいものだと思わせるプロパガンダが広まっているが、その代表が大麻だ。

 10代の青少年もアクセスするネット上で、その宣伝が行われており、日本も例外ではない。大麻の毒性はたばこの5倍。健康を害するのはもちろん、社会も破壊するので、絶対に合法化すべきでない。

 ――現在の薬物対策の問題点は。

 防止教育が十分でないことだ。薬物との闘いには、四つ方法がある。一つは防止教育。薬物に手を出す前に、その危険性などについて伝えること。二つ目は売人を捕まえて、売買を止めさせて社会への流出を防ぐこと。これは主に警察の仕事だ。

 三つ目は「ハーム・リダクション」で、薬物を摂取する人たちに対して、医療的な措置をほどこすこと。四つ目は、リハビリを通じて、社会復帰を促すこと。薬物との闘いにおける最大の問題は、この四つのバランスが崩れていることだ。

 ――どうバランスが崩れているのか。

 ヨーロッパ諸国では、予防教育に薬物対策予算のうちの3%しか投入していない。リハビリに関しても非常に予算が少ない。私の仕事は防止に予算をもっと投入すべきだと訴えることだ。

 ――なぜ防止教育が重要なのか。

 私たちが何かの問題を抱えた場合、たいていは問題というのは結果だ。問題を解決しようとする時に、結果に対して何かをするのと、原因に対処するのと、どちらが問題解決につながるか。もちろん、原因だ。

 薬物の場合、乱用者、犯罪などは薬物に起因する結果であり、薬物問題の原因ではない。原因は薬物に対する知識の欠如だ。それ故、私たちの団体は「真実を知ってください:薬物」を22の言語で出版し、世界に薬物の真実を知らせている。

 ――治療などによって健康被害を軽減させようという「ハーム・リダクション」をどう評価するか。

 ハーム・リダクションという方向性は嘘であると言いたい。なぜなら、代替薬物の摂取を続けさせることだからだ。たとえば、大麻をやめさせるために処方するメタノンという薬があるが、大麻よりもメタノンをやめさせることのほうが難しい。

 また、モルヒネが出た時には副作用が少ないと言われたが、そのあと、すぐに副作用が問題となった。そして、「完璧な薬がある」として使われ出したのが医療大麻だ。こうしたことが歴史的に繰り返されている。

 したがって、薬物をやめさせるために、ほかの薬物を摂取させるのではなく、一切薬物を取らないというのが唯一効果的な方法だ。本当に効果的な防止方法とは、シンプルである。

 ――効果的な防止対策は、具体的にはどのようなものか。

 薬物を摂取したらどんな結果になるかについて十分な理解をもたらすなら、それが防止につながる。それで、薬物防止の講演やDVD、小冊子を使って、薬物がなぜダメなのかを、子供や大人に十分に理解してもらえるようにすることが大切だ。

 人間が薬物を取るのは、起きた問題にふたをしたいからだ。しかし、薬物を摂取すると、考える力がなくなり、問題がさらに大きくなる。

 だが、しっかりした防止教育を行うと、「やはり手を出してはいけない」という認識が生まれ、問題は大きく改善する。それは難しいことではない。

 だから、私の講演のゴールは「理解」。薬物が体に及ぼす害などについて、段階を追って説明する。そのようにして、薬物についての理解をもたらすと、10人中10人が「絶対にやらない」と言ってくれる。

 ある統計によると、21歳までに薬物を取らなければ、その98%は一生涯薬物に手を出さないことが分かっている。だから、早期からの防止教育が重要。しかも、防止教育はもっとも節約的な対策となる。薬物を摂取すると、回復するまでには相当な費用がかかる。したがって、私は、最初に述べた四つの対策のうち、50%は防止に投入されるべきだと考える。