学力テスト静岡県の成績急落で知事の言動より原因を探るべき各紙
◆最下位の理由は何か
静岡県の川勝平太知事が“騒動”を起こしている。
8月に公表された2013年の全国学力テストで同県の成績が大きく下がり、とりわけ小学6年国語Aの成績は全国で最下位だった。川勝知事はこれに憤り、成績下位100校の小学校長名を公表すると県教育委員会に迫ったが、反対され、逆に全国平均以上の成績だった86校の校長名を公表した。「学校教育の責任の所在を明確にする」というのがその理由だ。
これには新聞は否定的である。全員参加のテストの競争序列化として反対する毎日は「何のための学力調査か」(22日付)、朝日は「上位校でも疑問だ」(26日付)と批判したばかりか、全員参加に賛成の読売も「静岡の校長名公表は不可解だ」(26日付=いずれも社説)とした。
読売は、公表については全面否定でなく、「静岡のケースは公表のあり方に一石を投じた」とし、「文科省は適切な方法を検討してもらいたい」と注文をつけている。
が、知事の気持ちは分からないでもない。07年の全国9位から29位も下落したからだ。これは全国一の落ちっぷりで、「静岡 下落『深刻』」(朝日8月28日付)と新聞の見出しにも取られた。
校長名が公表された、つまり全国平均以上の86校は一見、多いようだが、学力テストには県内507小学校が参加したから、わずか17%だ。なぜ、かくも下落したのか、新聞には書かれていない。
◆教材を指摘した産経
唯一、産経9月14日付オピニオン面「解答乱麻」で向山洋一氏(TOSS代表)が静岡県の保護者や教師、生徒ら約3000人へのアンケートから「重要な問題を抱えていた」と指摘している。
向山氏は、教材の採用をめぐって退職校長会と版元の利権構造が長く続けられ、「静岡県の子供たちが使っている教材のレベルは低い。というよりひどいと言った方がいい」と断じている。管理職から退職校長会で作った教材を使うよう強要され、「静岡の子供たち、心ある多くの教師は苦しんでいる」と言うのだ。
しかし、記者は取材していないのか、こういう内幕は伝えられない。それで改めて8月の新聞を繰ってみたが、新聞には成績が上昇した話はあっても、下落している県の話はほとんどない。何より不思議なのは、日教組について産経すら触れていないことだ。
かつて日教組は「学力テスト反対闘争」を繰り広げ、北海道旭川市では学校閉鎖事件(1961年)まで引き起こし、中止に追い込んだ。それを再実施させたのは中山成彬氏(05年、当時の文科相=現衆院議員)で、「日教組の強いところは学力が低いのではないかと思ったから提唱した」と後に述べている(08年9月、国交相就任インタビュー)。
こんな中山発言もあり、08年9月の結果公表では、日教組をめぐって論争が起こった。朝日は学力と日教組の強さは無関係と主張(08年9月27日付「大臣ズレてます 調べたら無関係」)。だが、産経はこの主張をひっくり返し、成績下位と日教組の相関関係を証明した(同10月8日付「低学力地域は日教組票多く」)。
◆日教組票との相関は
では、今回の成績と日教組の関係はどうだったのか。7月の参院選での日教組候補、神本美恵子氏(民主党、約17万6千票で当選)の獲得票と照らし合わせてみると、やはり相関関係は存在した。
得票数が最も多いのは三重(約1万6千票)で、2番目は何と静岡(約1万5千票)、それに北海道(約1万4千票)が続く。得票率は三重、山梨、大分の順で、この3県は日教組の「御三家」と呼ばれる。
学力テストの成績を見ると、三重と山梨は小学校が40番台で低迷、北海道は小学校の算数Bが最下位、他の教科も40番台とふるわない。大分は小学校で43位から23位へと上げたが、中学校は36位(各紙掲載の各教科都道府県順位の平均を参照)。
ちなみに全国最下位の沖縄では沖教組が社民党の地元出身候補の応援に熱を入れていた。共産党系の全教が強い大阪では橋下徹氏の奮闘の成果か、小学校は30位になったが、中学校はまだ44位だ。
果たして静岡の下落に日教組は関係していないのか。掘り下げた報道もせず、川勝知事を叩くだけでは真相はとうてい読めない。
(増 記代司)