地方私立大学サバイバル

地域活性化に人材

札幌学院大学理事長 井上 俊彌氏に聞く

 わが国において人口減少が指摘されて久しいが、地方に拠点を置く私立大学は今、大きな岐路に立たされている。グローバル化や価値の多様化など急速な社会変化の下、将来を見越した対応が求められている。その中で、江別市に拠点を置く札幌学院大学は、新キャンパスを札幌に建設するなど積極的な大学運営を展開している。地方の私立大学の課題や生き残り策について同大学理事長の井上俊彌氏に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

若者層確保に貢献
国立大出身、地方に残らず
受験人口減少でも校数増え競争過熱

日本の私立大学を取り巻く環境は厳しさを増しています。特に地方では深刻だと聞いていますが。

井上俊彌氏

 いのうえ・としや 昭和6年3月生まれ。小樽市出身。株式会社HPI会長。昭和28年、札幌短期大学商学部(現札幌学院大学)卒。44年、井上商事設立。北海道観光土産品協会会長、北海道観光連盟副会長、札幌観光協会副会長、全国観光物産振興協会会長を歴任。中国瀋陽大学客員教授。北海道観光功労者賞、北海道産業貢献者賞など受賞。

 日本全体で大学を受験する18歳人口は減少しています。この傾向は今後、少なくとも18年先まで数字が出ております。このように18歳人口が減り続けるにもかかわらず、実は大学の数は増え続けているのです。

 ちなみに、国立の調査機関によれば2016年度の18歳人口は約120万人なのに対し、30年では100万人程度まで減少し、40年には約80万人まで減少するという推計があります。それに対して大学の数は04年には709校だったのが、18年では787校、昨年では800校を超えたといわれています。これでは大学自体の運営が厳しくなるのは当然で、各大学も何らかの形で努力し、存続を図っていかなければならないというのが実情です。当初、人口が減少しても大学進学率が上がるだろうという予測の下で大学の数は増えていったのだと思いますが、それ以上に人口減少が進み、大学間の競争が激しさを増しているという状況です。

井上さんが札幌学院大学の理事長に就任したのは5年前と聞きますが、やはり当時と今を比べて大学を取り巻く環境の変化はありますか。

 私自身、この大学の出身で同窓会や後援会の会長を引き受けていました。また、理事を20年近く務めていたこともあって5年前に理事長を引き受けました。理事長に就任する前は入学生は定員の半分程度まで落ち込んだ時期もありましたが、その後、理事長になってからは学生も増え続け、最近では定員目前まで達しております。学生が増えた要因は心理学部を新設したことが大きいと思います。心理学は工学や理学、医学とも結び付きが強く、発展性の高い学問で学びたいと思う学生が増えています。さらに、女性の進学率が多少高くなっている点もあると思います。私学全体の流れで見ると、文部科学省の首都圏大学に対する定員数厳格化により受験生が地方に分散されたことも影響していると思われます。

札幌学院大学では21年に新キャンパスを開設すると聞いています。新キャンパスには、かなり力を入れているように思われますが。

 私どもの大学は、終戦の翌年1946年の創立で、その後、50年に札幌短期大学、84年に札幌学院大学としてスタートしました。当時は、一般的に大学は広い敷地を求めて郊外に出ていったものです。当大学は札幌で開学しましたが、やはり環境の良さを求めて66年に江別に移転しました。しかし、現在のような少子化の時代は、やはり交通や住居面などで学生が生活しやすい利便性の高い所が求められています。本州にある大学を見ても、地方都市部の郊外にあった大学が中心部に戻っているという現象はあります。

 現在、当大学としては札幌市厚別区の新さっぽろ駅の近くに2021年4月の開設を目指して新キャンパスを建てることを決定しました。建設決定に当たって学内理事会でも侃々諤々(かんかんがくがく)たる議論がありましたが、こういう厳しい時期だからこそ前向きに取り組んでいこうということになったわけです。ただ、すべての学部を札幌に持ってくるのではなく、21年度は当面、経済学部と経営学部を移行することにしています。

先程、大学の数が増えているとの指摘がありましたが、地方の大学の役割はどのようなものと考えていますか。

 「地方の時代」といわれる昨今、人口減少が叫ばれる現代ほど道内の私大に託された使命は大きいものがあると考えています。というのも、地方には国立大学がありますが、学生の多くは東京など大都市に出てしまいます。例えば、北海道を見ると、国立大学の卒業生の7割は本州企業に就職してしまい、北海道に残るのは3割程度といわれています。

 一方、私大はその逆で約7割の学生が北海道に残るという結果が出ています。地方の活性化が叫ばれている今、地域社会に活力を与える若者層の確保はとても重要。とりわけ、知識や技術が高度化する中で、地域に有能な人材を輩出することは地方の大学としての責務であり、地方において就職率の高い学生を育成する地方私大の役割は非常に大きいものがあると考えます。また、北海道のように広域性を有する地方では、各自治体と大学、また地方経済界との連携も今後ますます重要になってくると同時に、グローバル化に合わせて留学生への対応や海外との大学連携の充実も必要になってきます。21年4月の新キャンパス開設はそうした時代の要請に応じたものと考えています。