無備有患の愚


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 こんな矛盾はない。司正の責任を持つ人は北朝鮮を主敵(仮想敵)だと言い、安保の責任を持つ人は主敵でないという。いったい誰の言葉が正しいのか。大韓民国の核心的な執権勢力の中で起こっている安保観の混乱だ。

 昨日、国会の人事公聴会に出席した尹錫悦次期検察総長(検事総長に相当)候補者は予(あらかじ)め提出した書面答弁で「わが国の主敵は休戦ラインを挟んで軍事的に対峙(たいじ)している北朝鮮」だと指摘した。今、この瞬間にも休戦ラインでは人民軍70万人が南に銃剣を突きつけており、30万人を超える韓国軍は彼らに向かって警戒にあたっている。わが国の若者たちが最大の暴圧勢力に対抗して私たちの生命を守っているのだ。それが主敵概念だ。

 このような概念すら持っていない人物が鄭景斗国防長官だ。彼は昨年の人事公聴会で、主敵に関する答弁をさけたまま、核兵器まで手にした北朝鮮をイスラム国(IS)水準の脅威勢力だと過小評価した。彼の就任後、国防白書からは「北朝鮮は敵」だという表現が消えた。先週、「6・25戦争(朝鮮戦争)は北朝鮮が起こした戦争犯罪だというのは正しいか」という議員の質問にはきちんと答えられず口ごもった。北朝鮮による韓国哨戒艦「天安」爆沈、延坪島砲撃事件についても「望ましくない南北間の衝突」だと人ごとのように語った彼だ。彼が顔色をうかがっているところが青瓦台(大統領府)なのか、北朝鮮なのか、こんがらがってしまうくらいだ。

 政治軍人の跋扈(ばっこ)によって、わが軍は戦う意思を失ってしまった。兵士たちは「戦争が起こったら我々が無条件で負ける」と心配する。一介の兵士でも憂慮する安保状況だが、軍の首脳部は天下泰平だ。壬辰倭乱(文禄の役)の時、王と臣下たちは義州で明の使臣に会うや否や「アイゴー、アイゴー」と大声で泣いた。聞いていられずに使臣が「もうやめなさい」と叫んだ。朝鮮戦争が起こると、張勉駐米大使はトルーマン大統領のもとに駆け付け、「国が滅んでしまいます。助けてください」と涙を流した。幸いその時は命を捧(ささ)げて戦ってくれる友邦があった。今、我々にはそんな友邦があるのだろうか。

 ふくろうは天気がいい時に桑の木の根を拾って自分の巣に強く巻き付けておくのだという。一介の動物ですら実践している有備無患(備えあれば憂いなし)を我々は放棄するのか。予め備えておかなければ、艱難は必ずやってくる。無備有患だ。

 (7月9日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。