指を見て月を忘る


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 2016年10月、米大統領選挙を1カ月後に控えて米連邦捜査局(FBI)、中央情報局(CIA)など情報機関の長がロシアが選挙に介入していると共同声明を発表した。声明はトランプ候補陣営の関連疑惑に拡大し、波紋が広がる可能性もあった。

 しかし、声明発表の数時間後に「トランプ候補が2005年に女性を卑下する低俗な対話を行った」という録音対話がインターネットに広がった。NBCのテレビ番組「アクセス・ハリウッド」が収録した対話だが、トランプ氏が思い通りに女性に触ったり、キスすることができると自慢する内容だ。

 トランプ氏は夜中に釈明ビデオを発表した。「私がいつ完璧な人間だと言ったか」と述べつつ、「率直になろう。ビル・クリントンは女性を実際に虐待し、(対立候補の)ヒラリーは(クリントン大統領の相手の女性たちを)いじめ、攻撃し、侮辱し、脅迫した」と攻撃した。ロシア介入疑惑の記事は蒸発した。ジェイ・ジョンソン米国土安全保障長官(当時)は「(ロシアの介入が)連日話題となってマスコミでもっと疑惑を提起して問題になることを期待したが、マスコミは横道にそれた」と語った。高度の戦略がうまく機能したという分析が出てくるのも当然だ。

 危機に際し“迎え火”を放とうとして挫折した場合もある。朴槿恵前大統領は16年10月24日午前、国会の施政演説を通じて「国民の熱望を込めた」憲法改正を行うと表明した。金武星氏など改憲論を切り出して集中砲火を浴びた政治家たちは口を閉じてはいられなかった。青瓦台(大統領府)が改憲論について「国政のブラックホール」だと言って与党を引き締めたからだ。しかし同日夜、ケーブルテレビJTBCのニュースが、崔順実被告のタブレットPC(後に捏造(ねつぞう)が判明)について報道したため、改憲論はしぼんだ。改憲が話題のブラックホールになることを熱望して切り出したが、まったくそうはならなかった。

 「(大統領候補時代の文在寅氏をSNSで批判した)恵慶宮金氏は知事の夫人」だという警察の捜査結果発表によって危機に陥った(与党・共に民主党所属の)李在明・京畿道知事が文在寅大統領にかみついた。大統領の息子の不正就業疑惑についても捜査しろと要求したのだ。「恵慶宮金氏」のツイッターがそれだけ信頼に足るものなら、なぜ文大統領の息子の不正就業疑惑については確認しないのかというわけだ。政治家たちの「見指忘月」(月を指しているのに指ばかり見ていっこうに月を見ないこと)の愚は古今東西を超越しているようだ。

(11月27日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。