浮かぶ原発「ロモノソフ」
国土が広く極寒の厳しい気候に覆われたロシアでは壮大な発想が生まれるようだ。ソ連時代、世界初の有人宇宙飛行はその代表例だが、最近ではロシア極北ムルマンスクで、5月19日に報道陣に公開された世界初の海に浮かぶ原子力発電所であろう。
浮体原発の名前は「アカデミク・ロモノソフ」と、18世紀にモスクワ大学を創設した科学者ミハイル・ロモノソフにちなんで付けられた。ロモノソフは、モスクワの北1000キロ近い極北の寒村ホルモゴルイの漁師の出身で、文無しの苦学生から身を立てた。分野を問わず探究心が強く、シベリア探検もして北極海航路を発見。陸路の通行困難な遠い極寒の地へ電力供給する浮体原発も同航路を通る。
ただ、ロシアで歴史的な学者と記憶される人物からの輝かしい“襲名”ながら、計画は難航した。着工は2007年。その後、造船所の倒産など経済難に見舞われて、国営原発企業ロスアトムへの引き渡し予定は13年末、16年9月…と順延され、工期の遅れで建造費も当初の2倍の4億8000万ドルに膨れ上がったという。
しかも、「グリーンピース」など環境保護団体は、ロシアの海上原子力発電計画に「浮かぶチェルノブイリ」などと批判。反原発運動にも巻き込まれている。
排水量2万1000トンのアカデミク・ロモノソフは、人口20万人分の発電量を賄う。やっと4月にサンクトペテルブルク造船所からムルマンスクに向け、2隻のはしけに曳航(えいこう)されて出発。現在、停泊するムルマンスクで核燃料を積み、試運転を経て、極東の北極海へと向かう。目的地はカムチャツカ半島を北上した北極海側、チュトコ自治区の人口5000人程度の町ペベク。欧州・フィンランドに近いムルマンスクから遠い旅となり、到着は来年夏頃と、まだまだ発電計画は遂行途上だ。
(K)