ロシア原子力推進ミサイル実験に失敗か

ビル・ガーツ

 米情報機関は、ロシアが過去数カ月以内に原子力推進巡航ミサイルの試験発射を行ったが、失敗していたことを把握していた。国防当局者が明らかにした。

 試射は、ロシアの北極地方で2度行われ、そのうち1度はロシア空軍基地と核実験場があるノバヤゼムリヤ島で行われた。原子力推進機の点火に失敗したとみられ、国防筋によると「2度とも点火しなかった」という。

 試射中、ミサイル実験の監視にも使われるロシア軍機I1976とともに、国営原子力企業ロスアトムの車両が実験場付近で確認されており、核物質が実験で使用されたことを示している。

 ロシアのメディアによると、このミサイルは10年で配備可能になるという。

 しかし、別の米当局者によると、原子力以外の推進力が使われた模擬実験である可能性もあるという。原子力推進巡航ミサイルの存在は、3月1日にプーチン大統領の演説で初めて明らかにされた。

 プーチン氏は「わが国の最新空中発射ミサイルKh101や米国のトマホークのような巡航ミサイルに小型で強力な原子炉を搭載したものであり、航続距離は数十倍で事実上無制限」とした上で、現存するミサイル防衛網での迎撃は不可能だと、新型ミサイルの能力を誇示した。

 米国がこのミサイルの動画を分析したところ、Kh101とは違う全く新しいシステムであることが明らかになったという。

 米国も1950年代から60年代にかけて原子力推進のジェットエンジンを搭載したミサイルの開発を行っていたが、計画は最終的に放棄されている。

 米軍事専門家らは、従来のミサイルと比較して迎撃網を突破する能力が優れているという主張には疑問を呈している。さらに、高温の推進機が搭載されているとみられ、大量の赤外線が放出されることから通常の巡航ミサイルよりも発見が容易になる。

 また、元国防総省の核兵器専門家マーク・シュナイダー氏は、原子炉を搭載して試射を行うことは非常に危険だと訴える。原子力推進機に点火し試射に失敗すれば、メルトダウン(核燃料溶融)を起こす可能性が高く、「正気の沙汰とは思えない。大量に放射性物質が放出されることになる」と実現性に疑問を呈している。