根深い嘘の文化


地球だより

 ロシアに住んでいて、本当にうんざりすることがフェイクニュース(虚偽情報)の存在だ。

 私がロシア人の気質で最初につまずいたのが、自己保身のために平気で嘘をつく、決して謝らない通弊だった。それは密告や投獄が日常茶飯事だった共産主義社会で生き残るために必要な知恵だったのだろう。

 今でも社会悪や政権の不正を告発する者が逮捕され、時には闇に葬られるという「正直者が馬鹿を見る社会」が現存する。世界に衝撃を与えている、欧米に向け拡散されるフェイクニュースの背後に、ロシアが関わりを持つと言われている。もっともロシア人の友人たちはその存在すら認めようとしない。かつてKGB(ソ連国家保安委員会)のお家芸だった偽情報工作は、ロシアの根深い嘘の文化を背景にしていると考えてよい。

 インターネットの発展により、情報拡散力が向上し簡単にソーシャルネットワークを通じて、真実であろうがなかろうが、瞬時に誰でも情報発信できるようになった。

 最悪なのは情報操作や意図的なヘイトスピーチや個人中傷などで、国家次元のいじめを誘発できるようになったことだ。

 欧州の反移民感情を助長するデマや中東問題のように仲たがいを生む要因をつくり出している。

 私はアネクドート(風刺ジョーク)を通じて本音を語るロシアの大衆文化が大好きだ。

 ――監獄である囚人が、なぜここにいるのか聞かれた。「わしはアネクドートを作っただけだ。暗黒街の顔役は皆、政権に入っているよ」――

(N)