中国政府、クシュナー氏に接近

ビル・ガーツ

 中国ウオッチャーらによると、中国政府は、ロシアの米大統領選介入疑惑が中国にも飛び火して反中感情が米国でわき起こり、モラー特別検察官による捜査対象に中国を加えるのではないかと懸念しているという。

 3月にトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏の家族が所有する企業が、ニューヨーク・マンハッタンの高層ビル「666フィフス・アベニュー」の株式を中国政府とつながりある大手保険会社、安邦保険集団に4億㌦で売却することを計画していると報じられた。ところが、中国政府は、この報道の政治への影響を最小限に抑えようと躍起だ。

 この売却案は、中国政府がクシュナー氏に接近し、影響力を行使しようとしていることを物語るものとみられているからだ。クシュナー氏は、外交政策に強い影響力を持ち、中国に対して融和策を支持している大統領顧問の一人だ。

 取引が成立すれば、28億㌦と報じられているビルの一部を安邦が所有することになる。売却計画では、安邦がビルの管理権を手にし、40億㌦を借り入れて改装することになっている。

 クシュナー氏は昨年11月、安邦が2014年に20億㌦で買い入れたニューヨークの高級ホテル、ウォルドルフ・アストリアで安邦保険の呉小暉会長の晩餐(ばんさん)会に出席している。このホテルはかつて、米大統領がニューヨーク訪問の際に滞在していたが、安邦が買い入れたことで、盗聴の危険があるとして使用を取りやめた。

 クシュナー氏の経営する会社クシュナー社の広報担当は、この売却計画にはクシュナー氏は関わっていないと主張したが、利害衝突の観測がくすぶっている。

 呉氏は、故鄧小平氏の孫娘の婿であり、中国共産党の裕福な最高幹部の子弟らを指す「太子党」の一員だ。

 呉氏は最近、突然姿を消し、さまざまな臆測を呼んだ。安邦は13日、声明で「私的な理由で一時的に職務を遂行できなくなった」とだけ説明している。

 米国の中国専門家らは、呉氏失跡は、中国政府による米政府に対する工作活動をめぐる臆測を打ち消すためではないかとみている。

 ハッキングや電子メールの流出などが明らかになっているロシア疑惑と違い、中国は近年、キッシンジャー元国務長官、オーエンズ元統合参謀本部副議長のような軍幹部ら、元高官らを使って米政治家らに影響力を及ぼすことを狙っている。

 キッシンジャー氏はクシュナー氏と親しいと言われ、トランプ氏は5月12日にキッシンジャー氏に会っている。