「戦争と平和」と愛国心
地球だより
NHKで放映された、ロシア文学の巨匠レフ・トルストイの「戦争と平和」(英国BBC製作)を見て、ロシアでいう祖国戦争の、ナポレオンのロシア遠征の足跡をたどりたくなった。
モスクワからバルト3国の一つリトアニアの首都ビリニュスに行き、そこから一面雪に覆われた大地をミンスクとスモレンスクを経由して、モスクワまで約900㌔の道のりを車で旅をした。
「戦争と平和」のクライマックスの一つ、ナポレオン率いる大陸軍とクトゥーゾフ将軍率いる露軍の双方が激突したボロジノの戦い(1812年9月)の舞台、ボロジノに立ち寄った。軍事史博物館や記念碑が当時の歴史を伝えるこの古戦場で、双方合わせて10万人が命を落とした。
大陸軍がやっとの思いでたどり着いたモスクワはクトゥーゾフ将軍によって焼き払われた。進退窮まったナポレオンは退却を余儀なくされ、冬将軍と露軍の追撃で壊滅状態となった。ロシア遠征出発時に60万人いた大陸軍のうち、リトアニア中部を流れるネマン川を渡ることができたのはわずか5000人という。
物語では、ピエールとアンドレイという2人の貴族の青年が、戦争を通じてそれぞれの人生を選び、違った意味で真の愛を手に入れていく。主人公の生きざまがトルストイの半生と重なり、ロシア人の素朴さと純粋な魂を深く理解することができる作品だ。
この祖国戦争はロシア帝政時代の国民の愛国心に大きな影響を与え、愛国・民族主義運動が巻き起こった。今ロシアに再び、愛国心を育もうとする動きがある。それが時の政治に翻弄(ほんろう)され、偏狭な民族主義に陥らないことを願ってやまない。
(N)