金メダルの指輪


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 ロシアでも身分を超越して貴族と結婚した“シンデレラ”がいた。貴族の下女だったナターシャだ。彼女は1850年、ウルソフ公と運命的な恋の末に結婚にゴールインした。黒海で盛大な結婚式を行ったが、結婚初日に不祥事が起こった。ナターシャがヨットに乗っていて海に指輪を落としたのだ。ロシアでは新婦が結婚指輪をなくすと愛が冷めて不幸になるという俗説があった。彼女は心配で眠れなかった。ウルソフもある日、旅行に行くと言って彼女のもとを離れた。彼女は深い喪失感のため床に伏してしまった。

 数カ月が過ぎて、ウルソフがナターシャの前に再び現れた。彼は妻に文書の束とロシアの地図を差し出して叫んだ。「これを見なさい。もう黒海はあなたのものです。だから黒海にある指輪もあなたのものです」。それまで黒海周辺の地主たちを訪ね歩いて土地を全部買ってしまったのだった。

 今度のリオデジャネイロ・パラリンピックでロシアの王子の指輪より、もっと貴重な“金メダルの指輪”が誕生した。昨日、柔道男子100㌔級(視覚障害6級)で優勝したチェ・グァングン選手は、競技場に妻のクォン・ヘジンさんを呼び出した。そして妻の首に金メダルをかけてあげながら「足らない私と結婚してくれてありがとう」と言ったのだ。妻の目にたまった涙のしずくが雨粒となって流れ落ちた。彼は決勝戦でブラジルのアントニオ・テノリオに一本勝ちした。優勝後、彼の視線は妻にくぎ付けとなった。一番最初に駆け付けて妻を抱きかかえて口づけした。

 チェ・グァングンの金メダルは今度が二度目だ。4年前のロンドン・パラリンピックで獲得した最初のメダルは彼を女ひとりの手で支えてくれた母親の首にかけてあげた。クォンさんとはロンドン大会で初めて出会ったが、二人は周囲の反対を押し切って2年前に結婚した。指輪もなく新婚旅行にも行かなかった。チェ氏はそんな妻にパラリンピックで必ず優勝して結婚指輪の代わりに金メダルを首にかけてあげると約束した。彼の夢はリオデジャネイロで現実となったのだ。

 愛する人に空の星でも取ってあげたいのが男性の心であるはずだ。しかし、あなたの愛を証明するために敢(あ)えて海を買ったり金メダルを取る必要はない。相手に対する真実な愛さえあれば、クローバーで作った花の指輪だけでも十分であるからだ。

 (9月12日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。