「新東亜」が暴いた中国の戦略目標
韓国のフィンランド化に狙い/対中外交の修正迫られる朴政権
韓国が高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)の在韓米軍配備を受け入れたことに対して、中国は猛反発し、韓国たたきに激しさを加えている。これまでの朴槿恵(パククネ)大統領による「中国傾斜外交」と「中韓蜜月」は何だったのかという批判が内外から湧き起こっており、韓国は対中外交の軌道修正を余儀なくされそうな状況だ。
東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」(9月号)は「中国は敵か友か?―サード荒波が暴いた中国の韓国観」という集中企画を掲載した。記事は次の通りだ。
▼中国の戦略目標は韓国のフィンランド化
▼韓国奇襲用ミサイル600基配備
▼経済報復時には中国にブーメラン
▼中国の無謀な愛国主義、韓国人から見れば「愚か」
▼「反米主義+事大主義」敵(米)の敵(中)は味方(韓国の進歩派はなぜ親中なのか)
▼「韓米同盟は死活問題」と中国に一線引くべき
これまで溜(た)まりに溜まっていた中国への「反論」を一気に吐き出したような特集である。
中国が自らを「大国」として意識し、それを前面に押し出してきたのは、「2008年の米国発金融危機」からだ。周辺に対して「大国小国関係で隣国を見下ろすことが頻繁になった」と同誌は指摘する。中国がいわば「覇権」追求の野望をあらわにしだしたのだ。
韓半島の国々は歴史的に中国の王朝と「朝貢・冊封」関係にあったが、1895年の日清戦争の結果、下関条約で日本が清朝に「朝鮮の独立」を認めさせ、晴れて独立を果たした。華夷秩序から解放された韓国は、植民地解放後、西側自由主義陣営に属して、経済発展を遂げ、今や先進国に迫るまでになっている。
一方、中国は列強との戦争、半植民地状態、国共内戦、共産党による大躍進の失敗、文化大革命―と国内混乱が続き、東アジアの覇権を求めるどころか、長いこと惨めな貧国にとどまっていた。政治的イデオロギーをのけて、経済発展に目を向けてから、「世界の工場」といわれるまでになり、遂(つい)に国内総生産(GDP)では日本を抜いて世界2位にまで発展した。中国が「崛起(くっき)」を始めたのである。
こうなると、一時期、経済で先んじていた韓国は、巨大な経済軍事大国として目覚めた中国に対して、過去の記憶が蘇(よみがえ)ってくる。このまま米国を要とする自由陣営の一角にとどまるか、崛起した中国の影響下に戻ろうかという選択を迫られたのだ。
この迷える韓国を中国はどうしたいのか。同誌は「フィンランド化」が中国の「戦略目標」だと断定する。これはフィンランドが「主権を守りながら、ソ連とは明確に別の政治体制を維持しつつ、ソ連に同調した」ことを指す。「自国の指導者がソ連共産党の政治局員格だった東欧の一部国家からすれば、フィンランドは羨(うらや)むべき存在」だった。
これを韓国に当てはめると、中国とは政治体制は異なるものの、中国に(外交、防衛政策などで)同調する―ということになる。具体的には「在韓米軍を撤退させ、経済的には中国の影響下に入る」ということだ。
同誌は、「もしかしたら、われわれは歴史の中で『東アジアの地政学的構造が揺れ動いた時期』と記録される激動の時代を生きているのかもしれない」と書いている。「孤立主義者が米大統領になり、反米親中指向の政治勢力が韓国で政権を取る日が来ることもあり得る」のだ。
朴世逸(パクセイル)ソウル大名誉教授は、「域内で単一覇権国家が登場するのを防がなければならない」とし、尹永寛(ユンヨングァン)元外相は、「韓半島問題を米中間に広がる世界政治次元の戦略ゲームから分離することが重要だ」と述べている。中国が覇権を行使できる状況は防がなければならないし、米中の争いの渦中に巻き込まれるのも避けねばならない、ということだ。
韓国が解かなければならない連立方程式の難度が上がっている。
編集委員 岩崎 哲