「ポケモンGO」ブームの波紋

日本のソフトパワーを羨む

 下火になったとはいえ、拡張現実(AR)と地図アプリを利用したゲーム「ポケモンGO」ブームは技術の可能性の広がりを示した画期的な“事件”だ。

 7月の配信開始から約1カ月で累計ダウンロード数は世界で1億を突破、アプリ内購入の売上も1日に1000万㌦(約10億円)以上というから驚きである。

 同ゲームは地図を提供するグーグル、同社から派生したナイアンテック社、そしてポケットモンスターのキャラクターを管理する株式会社ポケモンが共同開発したものだが、地図アプリとAR技術だけあればできたのではなく、20年にわたるポケモンの「歴史」と世界中で共有されたストーリーがあって初めて可能だった。

 リオデジャネイロ五輪の閉会式で披露された次期開催都市東京を紹介する10分足らずのプレゼンには、やはり世界中が知る日本で生まれたゲームやアニメのキャラクターが登場した。安倍晋三首相までが「スーパー・マリオ」に扮し、会場を盛り上げた。これが可能だったのはここに“出演”したマリオ、ドラえもん、キャプテン翼、パックマン、ハローキティ等々、世界的に知られたコンテンツがあったからだ。

 今、日本のこうしたソフトパワーの盛隆を羨望(せんぼう)のまなざしで見ているのが韓国である。そして、「なぜ、われわれはポケモンGOのようなゲームを作れないのか」と自問する。似たようなことがあった。2009年、李明博(イミョンバク)大統領(当時)が、「韓国でも任天堂のようにゲーム機を開発できないのか」と経済会議で問うていた。そして今、ハード(ゲーム機)よりもソフト(コンテンツ)の方が重要だと気付いてきた。

 「月刊朝鮮」(9月号)で韓国ゲーム学界会長の李ジェホン崇実大教授が「ポケモンGOブーム」を分析している。李氏はポケモンGOの成功に、豊富で多様なコンテンツ、技術とコンテンツの融合、完成度の高いデジタルストーリーテリングの3点を挙げた。ゲーム学界の会長だからなのか、日本人では考えもつかない角度・視点の分析もある。

 「豊富で多様なコンテンツ」として李教授が挙げたのは、まず最初に中国の神話集「山海経」だ。「そうだったのか!?」と日本人が驚く話だ。さらに「日本の文化コンテンツの中には妖怪話が多い」として、「日本霊異記、今昔物語、大鏡、宇治拾遺物語、十訓抄らはストーリーテリングの宝庫」だと絶賛する。

 韓国には、ポケットモンスターが日本古来の妖怪などをモデルにキャラクターが作られていると思っている向きが強い。だが、ポケモンキャラで妖怪は数えるほどだ。多くは動物や植物などをモデルとしている。日本の豊かな説話がこうしたキャラクターを生む土壌になっているという解釈は、一面で首肯し得るものの、そこを重要視されても戸惑う。

 ポケモンは任天堂が1996年に発売したゲームだ。それからゲームボーイ、DS、3DSなどのゲーム機でキャラクターの主力となってきた。それらはゲームだけでなく、アニメや映画、カードゲーム、キャラクターグッズなどに発展、しかも国内だけでなく、世界中で人気を呼んだ。そうした、かつてゲームボーイやDSで遊んだ世代までがポケモンGOの“顧客”となったのだ。

 李教授は、「ポケモンというグローバルIP(知的財産権)に重要性があることを肝に銘じなければならない」と強調するが、韓国に最も欠けている部分である。韓国はかつてはパソコンによるオンラインゲームで世界最高峰にいたが、ゲーム市場がスマートフォンなどを使ったモバイルに転換していっている中で、時代にそぐわない規制を改めることができず、時代の流れに乗り遅れた。国内市場を中国など外国資本に奪われ、「国内ゲーム企業は立つ瀬がない」(李教授)状態となっているのだ。

 「官の規制」を批判する一方で、韓国では「官の支援」を期待することも多い。だが、この発想自体が間違っているように感じてならない。官制のアニメやキャラクター、さらにはゲームソフトを開発して、いいものが出てくるわけではない。むしろ、民間の自由な発想に干渉しないことの方が重要だが、そこになかなか気付かない。

 編集委員 岩崎 哲