ロゼットの奇跡
韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」
1960年代、米国のペンシルベニア州ロゼット村を調査した医者たちは不思議な現象を発見した。心臓病で死亡する住民たちがほとんどいなかったのだ。
イタリア移民で構成された住民の中には、酒とタバコを好んだり肥満の人も少なくなかった。心臓病にかかりやすい悪い習性はすべて持っていながら、どうしてこんなことが起こるのか。
調査に着手した医者たちは意外な行動に回答を見いだした。生活を楽しむ彼ら特有の生活方式だった。住民たちは道を歩いていても立ち話をし、料理を作っては隣人たちと一緒に食べた。村には3代が一緒に暮らす大家族が多かった。親密な社会の絆が健康と長寿を守ってくれていたのだ。このように共同体的な要因が健康にいい影響を及ぼす現象を「ロゼット効果」という。
残念ながらロゼットの奇跡はそれほど長く続かなかった。黄金万能主義が村に浸透して共同体文化が崩壊し始めたためだ。人々は共同体に対する貢献より、個人の生活を優先するようになった。住民の心臓病による死亡率は次第に上昇して1970年には1940年の倍近くになった。
ロゼットの悲劇は今日、この韓国で再演されている。
昨日、私たちは惨憺(さんたん)たる成績表を受け取った。OECD(経済協力開発機構)の「2015生活の質」報告書によると、韓国の生活の質は加盟34か国中27位にとどまった。苦しい時に助けてくれる親戚や友人の有無を尋ねる質問には72%だけが「そうだ」と答え、最下位だった。家族間の対話も絶えた。父親が子供と一緒に楽しんだり、勉強を見てあげる時間はわずか3分にすぎなかった。
韓国の伝統社会の姿は、ロゼット村の昔の風景と変わらなかった。韓国人のDNAには「ナ(私)」より「ウリ(私たち)」を優先する共同体精神が溶け込んでいた。自分の父母(アボジ・オモニ)を指して、ウリアボジ、ウリオモニと呼ぶ民族がどこにいるだろうか。そんな偉大な精神が消えて、生活の質が心臓病にかかったようにふらついているのが昨今の現実だ。
生活の質は「漢江の奇跡」のように圧縮した成長ではよくならない。共同体構成員の努力なくしては不可能だ。ロゼットの奇跡には、ニスコという義人がいた。彼は住民に種を分け与えて、花をきれいに育てれば賞を与えた。今の私たちにとって切実なのは、共同体を美しく育てあげる精神だ。共同体も水を与えてこそ、花が咲くというものだ。
(10月20日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。