万引きが増えるモスクワ


地球だより

 ロシアの友人が日本を訪れて度肝を抜かれたことは、「監視人も監視カメラもない無人の野菜販売の露店がある」ことである。

 モスクワでは近年、郊外に外資系などの巨大スーパーマーケットがいくつも営業しており、買い物客が大型のカートに食料品を山盛りにして、レジに長い列をつくっている。週末に1週間分の食料品をまとめ買いする人々が多い。

 以前はさまざまな輸入食料品が商品棚を埋めていたが、今は代わりに、国産品か、中国産の食品が並んでいる。ウクライナ危機を受けた欧米の対露制裁と、これに対抗するロシアの欧州産農産物禁輸措置の結果だ。

 最近、スーパーなどで、万引き対策の警備が非常に厳しくなった。レジで会計を済ませた後に、商品タグに反応する防犯ゲートを通過するのだが、アラームが鳴り荷物検査を受ける老人をよく見掛ける。買い物の最中に、精算前の商品を開封し食べてしまう人も多い。

 筆者の目の前で再びアラームが鳴った。駆け付けた警備員が老人の行く手を塞(ふさ)ぎカバンを開けさせると、酒類や、ソーセージなどの食品が出てきた。

 ロシア連邦税務局の統計によると、万引き被害件数は昨年同期比で68%増で、被害総額は9億3000万ルーブル(約15億8000万円)に達したという。

 原油安や経済制裁の影響に加え、ルーブル安で物価が上昇し、国民の生活を直撃している。ロシアの社会が荒んできていることは間違いないだろう。

 ウクライナからクリミアを奪ったロシアは、大事なものを失いつつある。

(N)