危険な「自撮り」ブーム


地球だより

 ロシアの若者たちは、解放感と刺激を常に求めている。歴史や環境という背景もあるだろうが、筆者がロシアに住んで感じるのは、長く暗い冬のせいだ、ということだ。

 寒いだけならまだしも、太陽が出る日がほとんどなく、いつもどんよりとした曇り空。気分も憂鬱(ゆううつ)になる。

 それが夏になると、北国だけあって日照時間が非常に長い。気分も高揚し、若者たちが羽目を外したくなる気持ちも分かる。しかし、ある程度の節度は必要だろう。

 最近、危険な場所で「自撮り」してSNSなどで仲間に見せることが流行しており、それが「カッコイイ」という風潮が広がっている。

 しかし、危険な場所は、当然だが危険が伴う。モスクワの新都心「モスクワ・シティ」を望む陸橋で21歳の女子大生が、夜景を背景に自撮り中、約15㍍下の路上に転落し死亡した。また、17歳の青年が「自撮り」のためにブロックによじ登り裸電線を掴(つか)み、感電死した。

 今年に入り「自撮り」が原因でケガをした人々は100人を超え、このうち10人が死亡した。

 事態を重く見た政府は、危険な「自撮り」をやめるよう啓蒙(けいもう)活動を始めた。「自撮り」の危険性を説明した冊子には、運転中や、道路の真ん中での「自撮り」が危険であることが説明されている。ただ、この程度で事故が防げるのかは分からない。

 実はロシアで最初に「自撮り」を楽しんだのは、文豪トルストイだという。ロシアの「自撮り」は歴史が長い。しかし、もしトルストイが生きていたら、今の「自撮り」ブームには眉をひそめただろう。

(N)