アジアにシフトしたロシア
米覇権に対抗する中露
オバマ氏、世界から後退
【ワシントン】21日、とうとう起きた。アジアへのピボット(基軸移動)だ。だが、米国のではない、ロシアが東に向いたということだ。
上海でロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席は、目を見張るような壮大なエネルギー合意に調印した。4000億㌦のシベリアの天然ガスを30年間にわたって中国に輸出するというものだ。
大規模な合意だ。こうして生産国と消費国を固く結び付けることで、ロシアのガスの輸入を削減するという欧州の脅しをかわすことができる。欧米からの脅しはほとんど効果はないが、いまだにあちらこちらから聞こえてくる。パイプラインの整備プロジェクトだけで700億㌦を要する。プーチン氏は輸出先はほかにもあると訴えたばかりだった。
露中合意によって、ウクライナ問題のせいでロシアは孤立したという米国の主張はまったく色あせた。ドイツでさえ、ロシアと事を構えるリスクを避けたがった。そのため大規模な制裁は科していない。そしてプーチン氏は、世界第2の経済大国との30年間のエネルギー協力関係をこれ見よがしに公表した。どこが孤立というのか。
オバマ氏の自慢のアジアへのピボットとは全く対照的だ。先月、訪日したオバマ氏も大規模な貿易合意を交わそうとした。基軸となる戦略的同盟関係を増強することを狙ったが、手ぶらで帰国した。
オバマ氏の外交チームは、何が起きているのかさえ分かっていなかった。ロシアと中国の連携は歴史に逆行するとしか見えていない。法と規範に支配される21世紀の現実が分からない過去の遺物のような人々が、19世紀風の勢力均衡を演出しているとしか思っていない。隣国の領土を併合するなどあり得ない時代だと思っている。確かにオバマ氏は、現代の相互依存の時代の主要なステークホルダーとしての義務を果たしていないとロシアと中国を批判した。
中国とロシアは何のことかとあきれ顔だ。規範と規則は、この国にとって何の意味もない。規範など、柔らかなベルベットでくるんだ帝国主義にすぎないと考えている。ロシアをソ連崩壊後の力をなくした状態に抑え込み、米国の強大な軍事力で中国を封じ込める西側の覇権の延長でしかないと考えている。
オバマ氏は現代のルールを主張する。ロシアと中国は、よみがえった国粋主義に命が吹き込まれ、古い地図に支配されているという。プーチン氏は、ウクライナの東部と南部を、古い帝政の言葉を使って「新ロシア」と呼んだ。中国の外相は、中国の南シナ海と東シナ海の支配を認めた過去の「九段線」地図を持ち出し、海洋法に反する広大な海域の領有を主張した。
これが、反西側の主要2カ国の協調を可能にしている。世界的な勢力バランスの大変革を示すものだ。
プーチン氏が上海に行ったことは、ニクソン元米大統領が中国に行ったことに似ている。確かにヘンリー・キッシンジャー氏はニクソン訪中を極秘で進めた。しかし、露中が徐々に接近し、最近になってその速度を速めたことで、キッシンジャー、ニクソン両氏の成果は根底から崩れている。
1972年の戦略的電撃訪問で、ソ連の地政学的形勢は逆転した。プーチン氏は、それをひっくり返した。中国とロシアはともに、反民主主義専制国家の新連合の核であり、西側が作り出した冷戦後の秩序に対抗している。協力関係の強化は、「ベルリンの壁」崩壊後の米国の覇権に対する世界的連合が初めて出現したことを示している。
習氏はアジア協力会議で、ロシアとイランを含み、米国を排除した新しい大陸安全保障体制を提唱した。これは、冷戦後の米国による世界支配に公然と対抗するものだ。オバマ氏は世界を支配する米国を引き継ぎ、考えられないほどに弱体化させた。
これが遂行されれば、四半世紀にわたる一極支配は終わりを告げる。二極支配の先駆けであり、自由世界とそうでない世界、二つの連合に世界は分かれる。だが、共産主義は死んだため、冷戦時の二極支配ほど構造的に強固でも、思想的に危険でもない。生きるか死ぬかの戦いではないが、支配をめぐる厄介な戦いだ。
オバマ氏は「どの国も、他の国の支配を試みることはできないし、すべきでない」と語った。問題に対し消極的であるばかりか、無関心ですらある。アジアへのピボットは、依然として実体がない。一方、中東からの撤退は既成事実であり、エジプト、サウジアラビア、リビア、シリアなどでの米国の影響力は、過去40年間で最低だ。
このような後退は、オバマ氏が提唱した大規模な軍事費削減でいっそう進んだ。一方のロシアは再軍備を進めている。中国は軍の近代化を進め、米国はすぐに環太平洋地域のこの海域に入れなくなるだろう。
後退は自然の成り行きではない。選択の結果だ。選択したのはオバマ氏だ。この分野でオバマ氏は大成功を収めている。