隠し口座の行方
地球だより
フランスの富裕層は、納税を免れるために、これまでスイスに隠し口座を持つ例が多かった。ところが国際的批判を浴びるスイスが仏政府の要請もあり、銀行機密の情報提供に踏み切り、隠し口座の追及が厳しくなる中、続々と預金をフランスに戻している。
仏財務省によれば昨年来、スイスやルクセンブルクに隠し口座を持っていたフランス人のうち、既にフランスに口座を合法的に移すための申請が約2万3000件に達しているそうだ。1件平均90万ユーロ(約1億2000万円)と言われ、国には18億ユーロ(約2470億円)の税収が入ることになる。
この額は当初の政府試算の倍の数字だそうで、税収を増やしたい仏政府としては財政赤字を減らす大きな財源となった形だ。なぜ知恵の働く高額所得者が素直に隠し口座を移しているかといえば、脱税の厳罰化で有罪になれば最高で禁固7年、200万ユーロ(約2億7000万円)の罰金を払わなければならないからだ。
そのため、隠し口座を海外に持つ富裕層は税務署が家宅捜索に来るのではないかとビクビクしているという話もある。
ただ、スイスやシンガポール、ルクセンブルクが銀行機密を捜査当局に開示する約束をしても、大口預金者は複数の持ち株会社やダミー会社、財団名で預金しており、本人を割り出すのは非常に困難とされている。実際、スイスに約10万あると言われる隠し口座のうち、実際に税金逃れの口座が解明されたのは1万8000件足らずという。
友人の欧州議会議員は「税金の使い道に全く納得できない国民も多い。単に自分の稼いだ金は自分のものと考えているわけではない」と言うが、タックスヘイブンにため込んだ金を世界のために有効に使われる例は少ないのも事実だろう。タックスヘイブン撲滅への道は険しそうだ。
(M)