汝矣島に高まる怨聲


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 「暗行御史の出頭(お出まし)だ!」

 『春香伝』(朝鮮時代の説話で、全羅北道南原府使の息子・李夢龍と妓生の娘・春香の恋物語)で暗行御史(朝鮮時代に民情を探るため地方に派遣された王の密使)となった李夢龍の出頭場面は壮快だ。卞(学道)府使は肝をつぶし、貪官汚吏は逃げ出そうと無我夢中になる。

 李夢龍は出頭直前に七言絶句の漢詩で、彼らの悪口を痛烈に批判した。「金樽美酒千人血 玉盤佳肴萬姓膏 獨涙落時民涙落 歌聲高處怨高」。「金樽のおいしい酒は多くの人々の血であり、玉の盆のいい肴は万民の脂なり。ろうそくから蝋が流れ落ちる時、民の涙も流れ落ちる。歌声の高らかな所に民の怨声も高い」という意味だ。

 李夢龍が吟じた詩は朝鮮中期の清廉潔白な官吏、成以性が作った詩だという。彼は主人公の李夢龍の実際のモデルでもある。成以性は南原府使を務めた父に従って南原で幼年期を過ごした。後に科挙に合格して忠清と湖南(現在の全羅道)地方で数回、暗行御史を務めた。

 彼が忠清道石城縣に着いた時には文字通り乞食のような姿だった。ちょうど守令(縣令)の誕生日なので、官衙(官署)では大きな祝宴が行われていた。民が飢え死にするような状況の中で、肉を焼く匂いがすると怒りがこみ上げてきた。官署に入った成氏は酒と肴(さかな)が山のように置かれているのを見て即席で前出の詩を作り、石城縣監は春香伝の卞府使の起源となった。

 春香伝の漢詩が久しぶりに汝矣島の政界で復活した。自由韓国党の沈在哲院内代表は昨日、「彼らが卞府使のように祝宴を催し、笑い声を高めている」と述べ、「春香伝に出てくる『歌聲高處怨高』を思い出していただきたい」と叫んだ。

 大混乱の政治と経済難によって国民の怨声が沸き上がる最中に、騒々しい酒席を設けた執権与党の驕(おご)りを皮肉ったのだ。共に民主党の議員約50人が前日、選挙法、公捜處法(高位公職者腐敗捜査處法)に続き、検・警捜査権調整法案まで議会を通過したので、韓食堂でにぎやかな祝宴を開いたのだ。

 孔子はかつて、「君主は船であり、民は水だ。水は船を浮かべもするが、船を転覆させもする」と語った。権力が法制を変えて現代版の暗行御史である検察の出頭(お出まし)を防いだとしても、国民の耳目まで遮ることはできない。国民を見くびる権力は結局、転覆した船の身になるものだ。

(1月15日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。