日米貿易協定、TPP水準の合意を評価
安倍晋三首相はトランプ米大統領とニューヨーク市内で会談し、日米貿易協定交渉の最終合意を確認した共同声明に署名した。日本は環太平洋連携協定(TPP)の水準で農産物市場を開放し、米国は幅広い工業品の関税を撤廃。米国による自動車への追加関税は回避された。
米は自動車関税撤廃せず
交渉は首脳会談に先立って行われた茂木敏充外相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表との協議で最終合意に達した。日米とも国内の法的審査が間に合わなかったため、正式な署名は近く閣僚・大使レベルで行われる。
日本はTPPと同様、現在38・5%の牛肉の関税を段階的に9%に削減。豚肉もTPPと同じ措置を取る。米国には協定発効時からTPP参加国と同じ税率が適用される。一方、コメは関税削減対象から除外した。
日本は農産物の市場開放に関してTPPの水準を上限とする交渉姿勢を貫いてきた。こうした日本の方針が合意に反映されたことは評価できる。
米国は産業機械、化学品、鉄鋼製品など貿易量が多い品目を中心に関税を削減・撤廃。ただ、日本が求めた自動車・同部品の関税撤廃には応じず、協定の付属文書に「さらなる交渉による関税撤廃」と記すにとどまった。
交渉が始まった背景には、トランプ氏が「TPPはあしき合意だ」として米国が離脱したことがある。しかし昨年末にTPPが発効し、米国産農産物は対日輸出条件が悪化した。
このため、米国は条件を改善しようと、日本に2国間協定の締結を求め、安全保障上の脅威を理由にした日本車への追加関税の発動も検討した。トランプ氏には来年の大統領選に向け、実績を作る狙いもあったのだろう。
最終的に、追加関税発動は回避された。発動されれば日米関係に悪影響を及ぼしかねず、回避は当然の判断だ。
ただ、牛肉の扱いに関しては懸念すべき点が残る。牛肉は協定発効後、日本側で約24万㌧の事実上の低関税枠を設定する。
TPPでは、離脱前の米国を含む加盟12カ国分として約60万㌧の低関税枠を設けた。米国への追加分と同程度、TPPの枠を縮小できなければ、TPP水準を超える市場開放につながる恐れもある。国内畜産農家に打撃を与えることがあってはなるまい。
協定は日本側のメリットもあるが、米国が関税を維持した自動車は貿易量が多く、総じて米国に有利な内容になっていると言える。
トランプ氏は「米国第一」を掲げて多国間協調よりも2国間交渉での国益追求を重視してきた。2国間の方が、自国の要求を通しやすい面はあろう。
日本は粘り強く復帰促せ
一方、米国が離脱したTPPは関税・ルール両面で高いレベルの自由化を実現する多国間連携の枠組みだ。米国は、知的財産権の侵害や国有企業への産業補助金などの構造問題を抱える中国からの輸入品ほぼすべてに制裁関税を発動している。TPPに復帰すれば中国への牽制(けんせい)効果は強まるだろう。日本は米国に粘り強く復帰を促すべきだ。