3年半ぶりのECB緩和で「出口」はいつ、と日銀・首相を批判する毎日
◆焦点は独の財政出動
欧州中央銀行(ECB)が、3年半ぶりの金融緩和を決めた。欧州最大の経済国ドイツが、中国向け輸出の落ち込みなどで、4~6月期の経済成長率が3四半期ぶりにマイナスに陥るなど、欧州経済の不透明感が増しているからだ。
社説で論評を掲載した読売(14日付)は「狙いは理解できる」と評価。また、「金融政策が為替相場に与える影響も見逃せない」とした。
というのも、米中貿易摩擦の激化などから米連邦準備制度理事会(FRB)が7月末に約10年半ぶりの利下げを決め、今週にも再利下げが見込まれる中、ECBが今回動かなければ、ドル安・ユーロ高の流れになり、欧州の輸出企業に打撃を与える恐れがあるからで、「そうなる前に手を打った面はあるのだろう」(読売)というわけである。
とはいえ、読売は米中対立が長期化の様相を呈し、早期の輸出回復は期待できまいとして、輸出依存度の高いドイツが金融緩和だけでこの局面を打開するのは難しいのではないかとして、「財政出動をためらうべきではない」とする。もっともな主張である。
同日付の日経は、政策正常化の第一歩として昨年12月に終了させた量的緩和を1年足らずで再開するのは「不本意だろう」とし、しかし、減速感を強めるユーロ圏景気に危機感を高めたドラギ総裁の「包括緩和」を「苦渋の選択」と適切に論評した。
日経も読売同様、「今後は財政面で最も余裕のあるドイツ政府の財政出動の是非が焦点だ」とした。
◆早過ぎた消費税増税
これら2紙に比べ、15日付毎日は、今回のECBや米国が緩和路線に転換したのに対し、日銀も追加緩和を辞さない構えだが、「ただ、異次元緩和の弊害を一段と際立たせる恐れがある」と警告し、これまでアベノミクスの6年半以上に及ぶ間に、異例の政策から抜け出す「出口」の道筋をつけられずにきた安倍政権と日銀を批判する。
確かに、同紙の批判は一理ある。同紙は追加緩和の候補の一つとされるマイナス金利の拡大について、「物価は日銀の思うようには上がらず、むしろ金融機関の経営を悪化させた。拡大はかえって経済の停滞を招きかねない」としたが、その通りである。
しかし、出口がここまで遅れている原因には、同紙も加担していることを忘れてはなるまい。2012年末に第2次安倍政権が発足し、大胆な金融緩和政策と機動的な財政政策、成長戦略の「三本の矢」で好調にスタートしたアベノミクスが、急激に勢いを失ったのは14年4月の消費税増税が原因である。アベノミクスが実現を目指した経済の好循環が軌道に乗る前に、早過ぎた増税が急ブレーキとなったからである。
もちろん、第一の責任は安倍政権にあり、金融当局として支持した日銀も同様であるが、新聞も本紙と東京を除き、社説で積極的に支持し実施を勧めた。毎日もしかりである。
◆成長重視策の維持を
毎日はまた、「安倍政権ではっきりしたのは景気拡大による税収増を当てにした財政運営の行き詰まりである」と批判するが、では増税に重点を置いて税収増を図った場合、どうなっていたか。
増税で景気が悪くなれば、所得税や法人税が減少し、トータルでは逆に税収が減る場合もある。特に1997年4月の増税がそうで、その後は成長率が落ち、税収が減って財成の赤字幅が拡大し、国債発行が激増してしまったのである。同紙には、こうしたことへの反省もない。同紙は現政権の発足直後から200兆円近くも、国と地方合計の借金残高が膨らんだとしたが、成長重視の経済運営をしていなかったら、低迷経済から借金残高はもっと増えていることであろう。
米中摩擦の長期化、世界経済の減速化から、同紙が指摘する出口明示の急務は現状難しい。現政権に求めるべきは、成長重視の政策維持と持続可能な社会保障制度の構築などの制度改革と適度な歳出削減策である。
(床井明男)





