かんぽ保険販売 「顧客本位」からは程遠い


 生命保険の不適切販売をめぐって、乗り換え契約の際に顧客に不利益を与えた可能性のある契約が過去5年間で約18万3000件に上ることが分かった。

 2014~18年度のすべての新規契約(約1000万件)を調べた結果、これまでに判明していた約9万3000件から倍増した。

保険料二重徴収の疑い

 倍増したのは、郵便局員がより多くの営業手当を得ようと故意に解約を先延ばしし、顧客から新旧契約の保険料を半年以上にわたり二重徴収した疑いのある事例が7万件に膨らんだことが大きい。新契約の締結から6カ月以内に解約すると乗り換えと見なされ、契約数に応じて支払われる営業手当が新契約の半分になるので、多くの契約は満額の手当を得るため、6カ月を超えてから解約されたとみられている。

 これまでに16年4月から2年9カ月間の約2万2000件が判明していたが、過去5年間を調べたところ3倍以上に膨らんだ。自分の手当を増やすために顧客に不利益を与えるなど言語道断である。「顧客本位」からは程遠いと言わざるを得ない。

 このほか、旧契約を解約してから3カ月以内に新契約を結んだ場合も乗り換えと見なされ、営業手当が半減されるため、4~6カ月間にわたって無保険だった事例も確認されている。保険業法は、契約者に虚偽の内容を伝えたり、不利益となる事実を告げずに既存の契約を解約させて新たな契約を勧めたりすることを禁じているが、今回発覚した営業行為はこれに該当する恐れがある。極めて悪質だ。

 日本郵政は、かんぽ生命の過去5年分の全契約およそ3000万件について、不適切な販売がなかったかどうかを調査すると発表した。かんぽ生命は既に、過剰な保険料を払い戻したり、無保険の間にかかった入院費用などは旧契約に基づいて保険金を支払ったりするなどの救済措置を講じているが、こうした措置を周知徹底する必要がある。

 不適切な販売が横行してきた背景には、郵便局の販売員への過剰なノルマと新規契約の獲得に偏った報酬体系がある。日本郵便とかんぽ生命は、今年度のノルマを廃止した。来年度以降は適切な目標設定の方法を確立することが求められよう。

 かんぽ生命は、低金利の長期化で国債中心の運用が行き詰まり、保険販売による手数料収入の確保を迫られている。郵便収益が低迷する中、日本郵便にとってもかんぽ生命からの販売手数料などが大きな収入源となっており、郵便局の現場での無理な営業につながったとみられている。ゆうちょ銀行でも高齢者への不適切な投資信託販売が見つかっている。

企業風土改善に取り組め

 今回の問題は、かんぽ生命が当初は「法令違反はない」と説明を続けたことで対応が遅れる結果となった。信頼回復には再発防止の徹底とともに「顧客本位」の原点に立ち返った意識改革が急務だ。かんぽ生命や日本郵便、ゆうちょ銀、そして親会社である日本郵政の経営陣は危機感を持って企業風土改善に取り組む必要がある。