民泊法1年、健全営業で訪日客増やしたい


 旅行者らに住宅を有料で貸し出せる住宅宿泊事業法(民泊法)の施行から1年を迎えた。

 政府は2020年に訪日外国人旅行者を4000万人に増やす目標を掲げ、宿泊の受け皿づくりを進めている。民泊はホテルなどに比べ宿泊料が安く、地域住民との交流も楽しむことができる。訪日客を丁寧にもてなし、海外の「日本ファン」を増やすことができれば、日本の外交にもプラスになろう。

地方では普及進まず

 民泊法が施行される前でも、旅館業法に基づく許可などがあれば民泊の営業は可能だった。だが、無許可で営業する「ヤミ民泊」が横行し、利用者が騒いだり、ゴミ出しのルールを守らなかったりして、住民から苦情が出るケースが相次いだ。

 そこで民泊法では、都道府県などに届け出れば営業できる仕組みを導入。許可制よりもハードルが低い届け出制により、自治体が民泊の実態を把握しやすくするのが狙いだ。年間営業日数も180日までとしている。

 届け出件数は今月7日時点で施行時の約8倍に当たる1万7301件に上る。観光庁はエアビーアンドビーなどの仲介事業者と連携し、仲介サイト上の違法物件の削除を推進。今年4月には届け出済みの適法な物件をまとめた仲介業者向けのデータベースの運用も開始した。

 ただ、違法民泊の撲滅にはまだ至っていない。運営者が海外に居住していたり、仲介サイトを通さずインターネット交流サイト(SNS)で宿泊者を募ったりして運営実態が分かりにくい物件があるためだ。国は自治体と協力して違法民泊の排除に努める必要がある。

 地方での普及も大きな課題となっている。都道府県別で届け出件数が最も多いのは東京都で5879件、次に大阪府の2789件、北海道の2499件と続く。これだけで全体の6割を占めており、大都市や訪日客が多く訪れる地域での増加が際立っている。一方、東北や北陸、四国などでは100件未満の県も多い。

 18年の訪日客数は3119万人に達し、20年に4000万人という政府目標の達成が視野に入ってきた。ただ訪日客を増やし続けるには、大都市圏から地方の観光地へ、いかに呼び込むかがカギを握る。

 このためにも、地方の観光資源の魅力向上と民泊の普及を共に進めていきたい。地方では空き家を民泊として活用することも一案だろう。

 ただ民泊利用者と周辺住民のトラブルを警戒する一部の自治体では、届け出の手続きがスムーズに進まないケースも見られる。民泊の信頼性を高める意味でも、安全や衛生が保証された健全な営業が求められる。

官民で違法物件撲滅を

 違法民泊を野放しにすれば、テロのアジトや売春目的に使われる場合も出てくる。15年11月に発生したパリ同時多発テロでは、犯行グループが知人を介して借りたとみられるアパートが潜伏先となった。

 20年東京五輪・パラリンピックを控える中、治安悪化の原因となりかねない違法民泊の存在を容認することはできない。官民挙げて撲滅すべきだ。