和牛の遺伝資源、海外流出防ぎ国益を守れ


 輸出が認められていない和牛の受精卵と精液が中国に持ち出された事件で、大阪府警が運搬役と指示役とみられる男2人を家畜伝染病予防法違反などの疑いで逮捕した。

中国への持ち出しが発覚

 逮捕容疑は、共謀して昨年6月下旬、凍結した和牛の受精卵や精液などストロー数百本分を金属製容器に入れ、検疫などを受けずに大阪市内に停泊するフェリーに持ち込んで中国・上海に持ち出した疑い。中国の税関が発見して持ち込みを拒否し、帰国後に申告して発覚したため、農林水産省が今年1月、検疫を受けていないとして、家畜伝染病予防法違反容疑で大阪府警に告発していた。

 受精卵などは徳島県内の畜産農家が売却し、入手した中国人の男が指示役の男に中国まで運ぶように依頼したとみられている。中国で転売しようとしたのだろう。

 また売却した畜産農家は、家畜改良増殖法で義務付けられている証明書の交付を怠っていた。府警は事件の全容解明を急ぐ必要がある。

 和牛は柔らかくて霜降りの度合いが高く、海外でも人気を集めている。国や自治体、生産者らが長年にわたって品種改良を続けてきた結果だ。

 国産牛肉の輸出は、10年前の2009年には565㌧で輸出額は37億円余りだったが、昨年は3560㌧で輸出額は247億円に達し、輸出量、輸出額がともに6倍以上に増えた。国は和牛のブランド化を進めており、今年は250億円の輸出額を目標にしている。

 だが受精卵が海外に流出して類似した肉牛が生産されれば、ブランド力が損なわれ、国内の畜産農家にとっては死活問題となる。国は00年以降、和牛の受精卵と精液の輸出を規制しているが、それ以前に和牛が海外に輸出され、東南アジアではオーストラリア産の「WAGYU」が日本産をしのぐ人気となっている。

 日本には、和牛を含む家畜の受精卵などの遺伝資源を知的財産として保護する法律がない。農水省は06~07年、保護へ向けた検討会を設置したが、家畜の遺伝にはばらつきがあり、品質が必ずしも安定しないため、ルール作りは見送られた。

 今回の事件を受け、農水省は和牛の遺伝資源に関する有識者検討会を発足させた。特許を使っての流通規制や、在庫管理、売買記録の徹底などの再発防止策を検討しているが、受精卵などを国外に持ち出した場合の罰則強化も含め実効性のある方策を講じてほしい。

 港や空港での検疫強化も求められる。今回の事件で運搬役の男は、船のチェックが飛行機に比べ甘いと判断していた可能性があるという。遺伝資源の海外流出を防ぎ、国益を守らなければならない。

対策強化は待ったなし

 この問題は、農産物でも深刻だ。イチゴは1990年代以降、韓国などに流出し、農水省は2017年に5年間の損失額が220億円に上ると試算した。ほかに、サクランボやブドウなどの流出も確認されている。

 看過できない状況であり、対策強化は待ったなしだ。