長期金利上昇容認、政策微調整で慎重に正常化へ


 日銀は政策決定会合で長期金利の誘導目標の柔軟化を正式決定し、0・2%程度までの上昇を容認した。長期化する大規模緩和の副作用を軽減するためだが、出口戦略を見据えた政策の微調整と言えなくもない。

 景気拡大の現状から、デフレ脱却という2%物価上昇目標の実質的目的は既に果たしており、2%の数字にこだわる必要はない。慎重さが求められるが、副作用軽減に向けた対処を本格的に進めながら正常化につながる方途を築いてほしい。

 金融機関の収益悪化

 日銀が今回、長期金利目標を柔軟化し、0・2%程度の金利上昇を認めることにしたのは、大規模緩和の長期化による副作用が放置できなくなってきたからである。

 超低金利状態の継続から金融機関の収益は一段と悪化。預金を集めて貸し出す金融仲介の機能が停滞し、景気と物価の足を引っ張るリスクが無視できなくなっているのである。

 今年3月期の地銀・第二地銀106行の純利益合計は5年ぶりに1兆円を割り込み、赤字に転落する銀行も出た。経営体力を奪われた銀行が貸し渋りに走れば、それこそ大規模緩和のそもそもの目的である景気回復に逆行することになる。

 大規模緩和長期化の原因は周知の通り、2%の物価上昇目標に届いていないからである。黒田東彦氏が日銀総裁に就任した2013年4月に「異次元緩和」を導入し、国債などの大量購入を開始。16年2月には金融機関が日銀に預ける当座預金の一部にマイナス金利を適用し、同年9月には長期金利を0%程度、短期金利をマイナスにそれぞれ誘導する現在の長短金利操作を始めた。

 大規模緩和は5年以上継続しているにもかかわらず、消費者物価は最新の6月(生鮮食品とエネルギーを除く)で前年同月比0・2%上昇と、目標の数値にはとても及ばない。長期金利の上昇容認を決めた同じ日に発表した展望リポートでは、物価見通しを下方修正し、20年度の上昇率を1・6%と従来予想の1・8%から引き下げた。

 ただ、2%の物価目標の目的はあくまでデフレ脱却であり、数値そのものに意味があるわけではない。現在の景気は「いざなぎ景気」ほどの力強さはないものの、緩やかな拡大を続け「戦後最長に迫っている」(今年度の経済財政白書)状況で、物価が継続的に下落するデフレではなくなっている。依然「潜在成長率の向上に課題」(同)はあるものの、2%の数値にこだわる必要はないだろう。

 米国の経験を参考に

 日銀は今回の決定会合で、政策の先行き方針を示す「フォワードガイダンス」で「当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」とし、マイナス金利政策も据え置いたが、マイナス金利を適用する対象を10兆円程度から5兆円程度に減少させた。

 長期金利の上昇容認と合わせ、大規模緩和の副作用という現実への対処は、出口戦略に通じる政策の微調整にもなる。米連邦準備制度理事会(FRB)の経験を参考に、慎重な政策運営を続けてほしい。