原爆の日 「核廃絶」の絵空事に踊るな
広島はきょう、長崎は9日に73回目の「原爆の日」を迎える。犠牲者に深く静かに鎮魂の祈りを捧(ささ)げたい。そして二度と戦争の惨禍を招かないよう平和への誓いを新たにしたい。
脅威は減じていない
昨年7月、国連で122カ国が賛成して核兵器禁止条約が採択された。条約は核兵器の開発・保有・使用などを法的に禁止するとしている。12月には条約の成立を働き掛けた団体がノーベル平和賞を受賞した。核兵器を世界からなくしたい。その願いは理解できる。
だが、同条約は絵空事にすぎない現実も知っておきたい。条約には核を保有する国のすべてが参加していない。国連安全保障理事会常任理事国(米英仏中露)のいわゆる5大国とインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の9カ国だ。
ドイツやイタリアなどのNATO(北大西洋条約機構)加盟国、米国と安全保障条約を結ぶ日本や韓国なども不参加だ。ノーベル平和賞を授与するノルウェーもそうだ。条約は50カ国が批准して発効するが、批准国は1年を経た今も14カ国にとどまっている。
核をめぐっては厳しい現実が横たわっている。欧州ではウクライナ南部クリミア半島を併合したロシアのプーチン大統領が「核戦力を臨戦態勢に置く用意があった」と発言し(2015年3月)、人々を震撼(しんかん)させた。ロシアの核の脅威が減じていないことを浮き彫りにした。
英仏は戦後、米国の「核の傘」の下で安住できないと自ら核を保有し、ドイツやイタリア、ベルギー、オランダの4カ国は米国の核を自国に配備し、有事にその使用権を持つ「核共有政策」を採った。今もこれを維持する。
中立国スウェーデンは核禁止条約に賛成したが、NATOとの関係を強化するため批准を保留している。今年1月には徴兵制を復活させ、核攻撃に備えて全国民が避難できるシェルターの再整備も進めている。
わが国を取り巻く安保環境はさらに厳しいものがある。6月の米朝首脳会談で北朝鮮は「完全かつ検証可能で不可逆的な核放棄」を確約しなかった。米本土に届く長距離ミサイルの開発凍結を発表したが、日本全土を射程に入れる中距離ミサイル「ノドン」はお構いなしだ。
北朝鮮の核放棄は不透明極まりない。米朝首脳会談があったから核の脅威がなくなると考えるのは早計だ。加えて中国は核軍拡を続けている。推定250発以上の核弾頭を保有し、吉林省の基地などに数十基配備して日本の主要都市に照準を合わせているとされる。
こうした現実から目を逸らすべきでない。核の惨禍から国民を守るには、しかるべき防衛力と国民保護体制が不可欠だ。例えば、2基で日本全土をカバーできる陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入だ。敵基地攻撃能力の保有を論じず、国民保護法が核シェルターの整備を見落としているのは政治の不作為だ。
核戦争防ぐのは核抑止力
核戦争を防ぐのは「核廃絶」のスローガンでなく、核抑止力だ。このことを原爆の日に当たって改めて確認しておきたい。