企業の景況感、改善進むも先行き警戒解けず
日銀が発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)によれば、大企業製造業で景況感の改善が目立った。好調な世界経済の回復を受け、電気機械などの業況判断が大きく伸びた。
ただ、輸出主導の改善には先行きへの懸念が根強い。非製造業では消費関連が相変わらず冴(さ)えず、建設やサービス業などで製造業以上に深刻な人手不足が続いている。
製造業の回復目立つ
大企業製造業の業況改善は4四半期連続で、業況判断指数(DI、景況が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値)がプラス22と、リーマン・ショック前の2007年9月調査以来、10年ぶりの高水準になった。
改善を牽引(けんいん)したのは、スマートフォンや半導体、自動車の製造に使われる電気機械や生産用機械などの業種である。人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)など、IT化による技術革新が世界的規模で急速に進んでいることを背景に、好調な世界経済を受けて工場の設備投資や、生産過程で日本企業がつくる製造装置や部品の需要が高まっているからである。また、為替相場が円安方向に動いていることも、製造業の景況感改善を後押しした。
ただ、こうした輸出主導の改善が引き続き望めるとは限らない。大企業製造業の先行きへの懸念は根強く、米政権運営の不透明さや北朝鮮情勢の緊迫化を背景に、3カ月後の業況を予測した先行きDIはプラス19と、現状より悪化すると見込む。
一方、2四半期連続で改善していた大企業非製造業のDIは、横ばいである。夏の天候不順などの影響もあって、宿泊・飲食サービス、小売りが振るわなかった。消費者の節約志向は依然根強く、スーパーなどでは値下げを余儀なくされる状況が続く。先行きについても、製造業と同様、悪化を見込む。
さらに規模、業種を問わず、企業活動の制約になっているのが人手不足感の強まりである。9月短観でも、過剰から不足を差し引いた雇用人員判断DIは、全規模全産業でマイナス28。これは約25年ぶりの水準で、業種では製造業より非製造業が、規模では特に中小企業で深刻である。
これに対し、企業は事務効率化に向けたソフトウエア投資で乗り切ろうとする動きが活発になっている。17年度のソフトウエア投資計画額は全規模全産業で前年度比7・6%増と、ソフトウエア投資額を含まない設備投資計画額(同4・6%増)を上回る伸びを示す。
問題はこうしたソフトウエア投資は、いわば「省人化投資」で直接的に雇用者の所得増につながらず、消費増に結び付きにくい点である。
雇用者の待遇改善を
企業には、足元の円相場が17年度の大企業製造業の想定為替レート(1㌦=109円29銭)より円安に推移していることからも、上振れが予想される企業収益を、雇用者の待遇改善や設備投資に一段と振り向けてほしい。政府も企業のそうした努力を雇用改革や税制などの措置で積極的に後押しし、経済の好循環形成に努めてもらいたい。