自律的成長へ政府の継続的財政支援を


 安倍晋三政権が来年4月の消費増税による景気への影響を緩和するため、5・5兆円規模の経済対策を閣議決定した。

 本紙は経済の自律的成長に至っていない段階での増税実施に強い懸念を示してきた。今回の対策は懸念を払拭するには十分ではない。企業の賃上げ、設備投資の動向にもよるが、公共投資を中心とした継続的な財政支援が欠かせない。

不十分な家計支援策

 政府は今回の経済対策で、国内総生産(GDP)実質成長率の1%程度の上昇や、25万人の雇用創出が見込めるという。

 もっとも、人手不足や資材高騰などから、そうした効果を疑問視する見方が少なくない。百歩譲って見込み通りになったとしても、来年4~6月期の実質成長率はマイナスになると予想されるほど、消費増税による駆け込み需要の反動減の影響は大きい。

 何より、これまでの「アベノミクス」によって、折角生じたデフレ脱却の兆しがなくなり、元の木阿弥(もくあみ)になってしまいかねず実に残念である。

 それだけに経済対策には、安倍首相がデフレ脱却を熱く語った政権発足当初に優るとも劣らぬ決意と準備が要るはずだが、財源に充てたのは今年度税収の上ぶれ分や12年度の剰余金などである。

 厳しい財政事情ということもあろうが、首相が「一過性の対策ではなく、まさに未来への投資だ」と強調する割には、何とか形だけは整えたという格好である。消費増税でデフレ脱却への流れを途切れさせてしまう分、それを元に戻し、自律的景気拡大に持っていくには、より多くのエネルギーが必要になったとの覚悟が求められる。

 今回の対策には、東日本大震災の復興財源に充てる特別法人税の前倒し廃止や、中小企業向けの「ものづくり補助金」の増額など、10月にまとめた設備投資減税と併せ、設備投資や従業員の賃上げを促す企業優遇策が盛り込まれ、確かに評価できるものも少なくない。

 設備投資や、賃上げによってもたらされる個人消費は成長のエンジンである。本来なら、デフレ脱却の目処(めど)が付き、企業が成長を期待でき、投資活動が積極的になった段階での消費増税が望ましかったのだが、増税が決まった以上は、こうした企業支援策はこれまでにも増して重要である。

 問題は本来、消費増税で最も影響を受ける家計への支援策が不十分な点である。低所得者・子育て世帯に現金が給付されるが、わずか6000億円、1回限りで効果も限定的である。やはり、広範囲に及ぶ軽減税率の導入が必要である。財務省や自民党の一部には、線引きが難しいとして否定的な声があるが、欧米などを参考にし、実現に骨を惜しむべきでない。

インフラの改修、更新も

 2020年の東京五輪開催に備えるとともに、老朽化したインフラの改修、更新も待ったなしである。

 こうした公共投資中心の継続的な支援で、日本経済を一日も早く自律的成長の軌道に乗せ、税の自然増収を見込める状況にすべきである。

(12月11日付社説)