電力自由化、安定供給にも万全を期せ


 きょうから家庭向けを含む電力小売りが全面自由化された。競争を促し、料金低下やサービス向上で消費者利益を高めるのが狙いだが、電力の安定供給にも万全を期すべきだ。

 266社が新規参入

 これまでは65年間にわたって大手電力会社がそれぞれの地域で電気の販売を独占してきた。戦後復興と経済成長を支えるため、収益の安定化と電力の安定供給を図る仕組みだった。

 電力自由化によって8兆円とされる家庭向け電力市場が開放され、ガスや石油、通信、鉄道などから266社が参入する。電気とガスや携帯電話のセット割引など新たな料金プランが発表され、事前予約も始まっている。自由化の恩恵を消費者に広げることが求められる。

 もっとも、現時点では様子見の家庭も少なくない。電力会社切り替えの申し込みも先月23日時点で、全国の家庭向け電力契約(6260万件)の0・5%の33万件にとどまっている。

 新規参入は顧客が多い首都圏と関西圏に集中し、料金プランの多くは毎月の電気代が1万円を超えるような多消費家庭を想定している。このため、地方在住者や単身世帯などは恩恵を感じにくい。こうしたこともあって、いまひとつ盛り上がりに欠ける印象を受ける。

 自由化に便乗した悪徳商法で高額な太陽光パネルや電気温水器の購入契約を結ばされたトラブルも全国で相次いでいる。政府は国民に自由化の内容について周知を図る必要がある。

 一方、自由化で先行する欧米では、料金が値上がりしたり、電力不足を招いたりしたケースが目立つ。英国では価格競争に耐えられない事業者が出て合併や買収が進み、結局は大手6社がシェアの大部分を占めた。

 ドイツでも事業者が淘汰(とうた)されたほか、再生可能エネルギーで発電した電気を一定価格で買い取る制度の影響もあって料金は上昇した。米国ではカリフォルニア州で2000~01年に大規模停電が生じた。発電会社が小売り事業者の財務に不安を感じ、供給を控えたためだが、停電を受けて自由化の計画を撤回した州もある。

 政府は少なくとも20年までは大手電力の料金規制を残す方針だ。また昨年4月には、電力不足による停電を回避するため、全国規模で電力需給を調整する「電力広域的運営推進機関」が発足した。今後も自由化の進展に応じて、必要な対策を講じていくべきだ。

 電力は生活や産業を支える重要なインフラであり、政府や電力会社には何よりも安価で安定的な電力の供給が求められる。そのためには、安全性を確認した原発の再稼働を進めることが欠かせない。

 原発への理解を得よ

 政府は電源構成に占める原発の比率を30年度に20~22%とする目標を掲げている。達成するには、高経年原発の運転延長や新増設も必要となる。

 国民の原発に対する不安が強いこともあって、政府の姿勢は及び腰にも映る。安倍晋三首相は、資源小国の日本における原発の必要性について丁寧に説明し、国民の理解を得なければならない。