この時期に追加金融緩和は適切だったのか
日銀が長期国債の年間買い入れ額を50兆円から80兆円に引き上げる追加の金融緩和に踏み切った。意外性や円安の進行から、株式市場は7年ぶりの高値を付けた。消費増税後、「デフレ脱却が大幅に遅れるリスクを未然に防ぐため」としているが、来月の消費再増税決断への環境整備というのが大方の見方である。だが、日銀本来の責務を忘れ、過度の緩和に走ることに不安を感じざるを得ない。
芳しくない景気の現状
今回の追加緩和策は、先月末の金融政策決定会合で5対4の賛成多数で決まった。日銀関係者(総裁と2人の副総裁)を除く6人の審議委員は賛成2、反対4。危うさを感じる委員は少なくなかったが、日銀首脳が数で押し切った形である。
なぜ、この時期に追加緩和なのか。黒田東彦総裁は、消費増税後の景気のもたつきや最近の原油市況の下落などから消費者物価の上昇の勢いが鈍っていることに懸念を表明。その上で「デフレ脱却が大幅に遅れるリスクを未然に防ぐため」と理由を説明したが、来月の安倍晋三首相による消費再増税決断への環境整備との見方が大半である。
半ば国際公約視されている消費再増税を実施しなければ、国際的信用を損ないかねないことは分かる。だが景気の現状は、政府が基調判断を2カ月連続で引き下げるなど芳しくない。9月の景気指標は、例えば家計調査で消費支出が6カ月連続のマイナスとなり、減少幅(前年同月比)は5・6%と8月から拡大。勤労者世帯の実収入は12カ月連続の減少で、物価上昇に賃金が追いつかない状態が続く。雇用環境も悪化してきた。
鉱工業生産などに一部明るさは見られるものの、消費の低迷が長引けば生産の力強い回復は見込めない。「景気は重大な局面にある」(内閣府)といえ、消費再増税を実施できる状況にない。首相が内外で語ったように、増税で景気を腰折れさせては「元も子もない」からである。
追加緩和はそうした景気の状況に変化を促すため、意外性を狙ったものであろう。その後の円安進行や株価高騰、景気対策の検討といった市場や政府の反応、対応からすれば、狙いは当たったように見える。
追加緩和を受け、政府は2段階での景気対策の本格検討に入ったようである。まず2014年度補正予算を編成し、首相が消費再増税を決断した際は15年度当初予算で駆け込み需要の反動減対策を検討するという。
しかし、消費再増税実施のために財政資金を使って経済対策を行うことは本末転倒である。増税、経済対策の繰り返しでは財政健全化もデフレ脱却も望めない。景気の現状に合わせ、再増税は延期すべきである。
通貨価値の安定損なう
日銀首脳も今回の決定に反対が多かったことを重く受け止める必要がある。追加緩和でさらに円安が進めば、原材料費の上昇から中小企業などの収益悪化に拍車がかかるほか、生活必需品のさらなる値上げを招き個人消費にも一段とブレーキがかかりかねない。過度の金融緩和は日銀の本分たる通貨価値の安定を危うくする恐れも小さくない。過信は禁物である。
(11月4日付社説)