文化の日、長い目で見た育成も忘れずに


 きょうは文化の日。情報化、グローバル化の中で、国力の要素として政治力、経済力、軍事力などとともに文化力が注目される時代となった。

 わが国では、政府がクールジャパン戦略の先頭に立って、日本文化の発信、売り込みに力を入れている。だからこそ、日本の文化や文化政策の現状を見詰めることも重要だ。

 官民で国際展開支援

 クールジャパンの先駆けとなったのは、漫画、アニメなど日本のポップ・カルチャーの海外での人気だった。また、世界的な健康志向の中ですしなどの日本食ブームが一層の広がりを見せ、昨年は和食が無形文化遺産、そして日本の象徴である富士山が世界文化遺産に指定されてクールジャパンを後押しした。今年に入ってからも、先月末に和紙の無形文化遺産への登録が勧告された。

 さらに昨年は2020年の東京五輪開催が決まり、これを日本文化の発信の好機として最大限生かそうと盛り上がりを見せている。

 日本の文化や伝統を産業化し国際展開するため「クールジャパン推進会議」が設置され、発信強化のための19項目のアクションプランが昨年5月に定められた。また、昨年11月には、映像や音楽、アニメ、ファッションなどの海外市場開拓を支援する官民ファンド「海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」が設立された。

わが国はユニークで多彩な文化を持つにもかかわらず、その発信力が弱く、さらに産業化、商業化という面で遅れをとってきた。官民連携の今後の成果を期待したい。

 一方、日本の文化行政を見た場合、まだまだ遅れた部分も少なくない。大阪市が、文楽協会への現行の補助金制度を来年度から廃止すると通告したことはその最たるものだ。大阪市の橋下徹市長は、文楽協会への補助金の見直しを行い、13年度から入場者が年間10万5000人を下回った場合、協会運営費を減額する制度を導入していた。今後は他の文化事業と同じく申請を受けて評価するという。

 文楽は無形文化遺産にも指定され、海外でも高い評価を受けている。歌舞伎のような大衆的人気はないが、関係者は厳しい修業を重ねて伝統の保持に務め、新しい舞台に挑戦している。わが国伝統文化の最も良質なものの一つを、経済性を尺度に扱うのは間違いだ。

 クールジャパン戦略も例外ではないが、経済効果だけに着目して文化を評価すべきではない。それは、せいぜい2~3年の短期的な見方になりがちだ。

 そもそもわが国の文化関係予算は、国家予算全体に占める割合が0・11%で、フランスの1・09%、英国の0・22%に比べ遙かに小さい。0・87%の韓国に対しては額でも約3分の2しかない(以上、12年度実績)。

 迎合招く経済性優先

 文化的な活動や創造は、経済的な利益を第1とした時は、迎合的なものとなり、かえって命を失いかねない。伝統文化の基盤と自由な創造性が魅力ある文化の前提である。文化の育成や創造は、もっと長い目で見ていくべきである。

(11月3日付社説)