「乏しい成果」と言うしかない拉致訪朝団
拉致被害者らの再調査について北朝鮮の特別調査委員会と平壌で交渉した日本政府代表団が帰国した。
「拉致問題が最重要課題である」との日本側の立場を、調査委のトップである北朝鮮の高官に直接伝えられたことはよかった。しかし、「成果」と呼ぶにはあまりにも内容が乏しい。
被害者の安否情報なし
特に拉致被害者の安否情報について、北朝鮮が「現時点で客観的な資料は発見できていない」として、調査は準備段階という従来の立場を崩さなかったのは残念だ。
北朝鮮は各被害者の入国の有無や経緯、生活環境、滞在先だった招待所などについて改めて調査し、「新たな物証や証人を探している」段階であると説明したという。だが全体主義国の中でも特に閉鎖度の高い北朝鮮で、当局が外国人の入国状況について知らないはずはない。
拉致問題は北朝鮮にとって最重要な対日外交カードの一つである。拉致被害者について再調査するまでもなく全容を把握していることは間違いない。
にもかかわらず「調査中」としているのは、カードとして拉致問題を最も有効に利用できるタイミングを狙っての時間稼ぎとしか考えられない。政府代表団は再調査の初回報告の時期についても言質を取れなかった。
安倍晋三首相は衆院地方創生特別委員会で「北朝鮮からは過去の調査結果にこだわることなく調査を深めていくとの説明があった。ゼロベースで調査を始めるものと理解している」と述べている。しかし、首相の姿勢は甘過ぎるのではないか。
日本側に必要なのは、北朝鮮が拉致被害者に関する情報を出さざるを得なくなるような断固たる態度だ。北朝鮮は日本を揺さぶるため、日本国内の世論を見ながら情報を小出しにしてくる可能性が高い。
まず何よりも引き延ばしをさせないよう、期限を切ることが大切だ。北朝鮮は当初、初回報告の時期について「夏の終わりから秋の初め」としていたが、その約束は反故にされた。北朝鮮は全く信用できない国であると認識することが交渉の大前提である。
日本政府が認定した拉致被害者12人の安否についても、北朝鮮はこれまで「8人死亡、4人未入国」と主張し、「拉致問題は解決済みだ」との立場を取ってきた。それが今回、手のひらを返したように「過去の調査結果にこだわらない」と態度を変え、拉致を実行した特殊機関への調査をも明言した。
日本人遺骨問題については「墓地などの全面的な調査を行った」と強調するなど協力姿勢を示した。
だが日本としては、拉致問題で進展がなければ前進とは評価できないことを明確に伝えるべきである。
制裁復活視野に交渉を
今回の政府代表団派遣には、決定当初から北朝鮮のペースに乗せられるのではないかとの危惧が付きまとっていた。実際、成果が乏しかったことは確かである。
政府は解除した対北一部制裁の復活も視野に入れつつ、今後の交渉に臨むべきだ。
(11月2日付社説)