米企業の廃炉作業参入に原発賠償条約が必要


 政府は、原発事故の発生時に加盟国が資金を出し合って迅速な損害賠償を可能にすることなどを定めた「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」の承認案と関連法案を閣議決定した。

 CSC加盟は東京電力福島第1原発の廃炉作業に、スリーマイル島事故に対処した米企業の参入を促す上で不可欠だ。今臨時国会での承認を目指したい。

日本の輸出後押しも

 CSCは①原子力損害に関する訴訟は事故発生国でしか起こせない②賠償責任は原子力事業者に集中させる③約470億円の賠償措置を各国に義務付け、それ以上の損害額となった場合は他の締約国が資金を拠出する――ことなどを定めている。

 1997年に採択され、米国、アルゼンチン、モロッコ、ルーマニア、アラブ首長国連邦(UAE)の5カ国が加盟しているが、「加盟国の原子炉の熱出力が40万メガ㍗」という発効条件が満たされていない。日本が参加すれば発効するため、米国が強く働き掛けてきた。

 条約加盟の利点の一つは、福島第1原発の廃炉作業で、独自の技術を持つ米企業の協力を得やすくなることだ。

 現在は、作業中に事故が生じて米企業の従業員がけがをした場合、米国で企業に損害賠償を求める訴訟を起こすことができるため、米企業は参入をためらってきた。条約が発効すれば東電が賠償責任を負うことがはっきりとするため、米企業も懸念を解消できよう。

 廃炉作業では、1号機での使用済み燃料プールからの燃料取り出し開始時期が2年、溶け落ちた溶融燃料は5年、それぞれ従来の計画より遅れることとなった。1号機原子炉建屋を覆うカバーの解体が遅れている上、必要な設備の設置にも時間がかかるためだ。

 汚染水処理も難航している。廃炉をこれ以上遅らせないためにも、かつてスリーマイル島事故を経験した米国の知見を生かす必要がある。山口俊一科学技術担当相が今年9月、ウィーンでモニツ米エネルギー長官と会談した際、モニツ長官は「加盟は福島の復興にも非常に有益」と強調した。

 もう一つの利点は、CSC加盟国内では原発機器の製造や建設に携わった国内外のメーカーが賠償責任を負わずに済むようになるため、原発輸出を後押しすることだ。

 世界で建設中、または計画中の原発は、今年初めの時点で200基近くある。福島第1原発事故の発生後も、新興国では日本の原発輸出を求める声が上がっている。

 日本では事故を受け、世界で最も厳しい原発の新規制基準が導入された。安全性の高い原発を輸出し、海外での事故のリスクを低減させることは、日本の責務とも言えよう。

加盟働き掛けが不可欠

 原発を含むインフラ輸出は、日本の成長戦略の柱の一つでもある。トルコでは安倍晋三首相のトップセールスで原発建設を受注した。

 輸出を進めるためには、輸出先となるであろう国々にCSC加盟を働き掛けることも欠かせない。

(11月1日付社説)