RCEP承認案、中国の脅威念頭に慎重審議を


 今国会に地域的な包括的経済連携(RCEP)協定承認案が提出されたことを受け、政府は経済効果について国内総生産(GDP)2・7%、民間消費1・8%、雇用0・8%の増加などの試算を発表した。

 ただ、同協定に署名した15カ国で最大の利益を得るのは国際秩序に挑戦する行為が懸念されている中国であり、拙速な批准は避けて与野党で熟議すべきである。

 世界GDPの3割占める

 日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国など15カ国が昨年11月に署名したRCEPは世界のGDP、貿易総額、人口の約3割を占める地域の経済連携協定だ。全体で92%の工業品目の関税を撤廃し、農林水産物についてもコメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の5品目や鶏肉・鶏肉調整品を除いて関税削減や撤廃がなされる。

 政府の試算を2019年度の実質GDP水準で換算すると約15兆円、雇用は同年就業者数を基に約57万人増えるなど、自由貿易が進むことにより経済的利益があることは確かであろう。だが、わが国の工業製品の輸出が進み、中国から冷凍かき揚げや乾燥野菜など農産加工品がさらに安く輸入されて日用品の格安化が進むというひと昔前のイメージとは全く違う。

 米ピーターソン研究所は米中関税戦争のいきさつを指摘しながら、世界の中でも経済史上最も生産性の高い東アジアのRCEP署名国の間で貿易コストを下げる経済活動が進むことにより、米国との経済のデカップリング(切り離し)が加速すると予想した。同研究所の試算によると、RCEPは30年までに世界のGDPを1860億㌦増やし、そのうち中国に850億㌦、日本に480億㌦、韓国に230億㌦をもたらす。

 あくまでも最大受益国は、地政学的にも東アジアの中心に位置する中国である。米国を抜き中国が世界一の経済大国になるという予測を現実化する起爆剤になる可能性がある。

 問題は中国が力による現状変更を強行してやめないことだ。承認審議では、RCEPでさらに経済力を増す中国の脅威をどう抑制するかを問うべきだ。沖縄県・尖閣諸島沖での中国海警船侵入、南シナ海のフィリピン実効支配海域での大量の中国「漁船」の停泊など東・南シナ海への中国の進出は緊迫の度を増している。

 また、新疆ウイグルではウイグル人の人権弾圧が進み、国際公約である香港「一国二制度」を無視する国家安全維持法によって民主派が弾圧され、国際社会の目の前で選挙制度が改悪された。米国がバイデン政権になって初の中国との外交トップ会談でも厳しく是正を要求したのは、自由と民主主義を破壊し自国で認めない中国が自由貿易の恩恵で強大化するのは矛盾以外の何ものでもないと超党派で認識したからだと言えよう。

 自由に基づく繁栄追求を

 わが国は日米同盟関係を堅持し、提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想による経済繁栄を追求すべきであり、逆行しないようにRCEPをめぐる審議で検討を尽くすべきだ。