国連内で影響力拡大する中国
警戒強める専門家ら米政権に対応求める
国連において中国の影響力が拡大していることに米国で警戒感が高まっている。人権の尊重など国連が掲げる価値観に背き、権威主義体制の正当化を試みる中国に対し、トランプ米政権に対応を求める声が相次いでいる。
15専門機関中4つでトップに
ウイグル族弾圧への批判抑制
近年、国連での中国の台頭が著しい。中国農村農業省の次官を務めていた屈冬玉氏が先月、国連食糧農業機関(FAO)の事務局長に就任。これによって 国連工業開発機関(UNIDO)や国際電気通信連合(ITU)、国際民間航空機関(ICAO)と合わせ、15ある国連専門機関のうち、4つの組織のトップの座を中国人が占めることになった。
国連分担金でも、中国は2000年には負担率が1%以下だったが、今年は12・005%まで上昇。日本を抜いて、22%でトップの米国に続き2番目となった。国連平和維持活動(PKO)に従事する人員は、00年5月に52人だったが、今年5月には2534人と大幅に活動を拡大させている。
これに伴って中国は、国連での影響力を高めてきた。問題は中国がこうした立場を、ウイグル問題への批判を抑え込むなど自国の政治目的を実現させるために利用していることだ。
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」がまとめた17年9月の報告書によると、中国の当局者たちは、中国に批判的なNGOが国連経済社会理事会の協議資格を取得できないように妨害するなどの圧力を加えてきたと指摘。また、国連の規則に違反して各国の人権状況を監視する国連の専門家に接触し、嫌がらせや脅しなどの行為をしたという。
ほかにも、中国出身の柳芳氏が事務局長を務めるICAOは、独立志向とされる蔡英文政権が誕生して以来、総会への台湾のゲスト参加を拒否。しかも、中華民国(台湾)のパスポートを持つ台湾記者の取材も認めなかった。
こうした中、特に問題視されているのは、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の次期事務局長の有力候補に2014年に香港民主派による大規模デモ「雨傘運動」を取り締まった中国の曽偉雄元香港警察局長が挙がっていることだ。
これをめぐって、クルーズ米上院議員は今月、FOXニュースで「中国共産党は、組織的に国際機関へ関与し、自らの計略を推進するためにそれを悪用している」と批判。香港での中国の権力乱用に直接関与した経歴を持つ曽氏が国連機関のトップに就任すべきでないとして、トランプ政権に阻止するよう訴えた。
国連の問題に詳しい米シンクタンク、ヘリテージ財団のブレット・シェーファー上級研究員は、先月下旬に発表した論考で、中国が国連において影響力を高めている目的は「国連の価値観、計画、政策を中国の利益となるように軌道修正させるため」だと強調。また、中国は同国出身の国連職員に対し、自国の利益を追求することを要求しているが、これは「職員の中立性を定めた国連憲章100条に反する」と指摘した。
シェーファー氏は、米国がこれに対抗するためには、国際機関における中国の影響について議会が情報機関に調査と報告を義務付けることや、国連機関のトップに立つ候補者を早い段階から準備するなどの包括的戦略が必要だとした。
また、シンクタンク、新米国安全保障センターのクリスティン・リー研究員は、今月16日に外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」(電子版)で、「権威主義的体制を正当化するための足場として国連を利用している」と主張。中国は国連を通してウイグル族弾圧への批判を抑えたり、台湾を孤立化させたりするだけでなく、「主権の尊重」の名の下にベネズエラやシリアの独裁体制を擁護しているとした。
その上で、「トランプ政権が中国と戦略的競争をすることに真剣であるなら、(国連という)最高の国際的な舞台での勝負により力を注ぐべきだ」として、国連における中国の攻勢に対し、本腰を入れた対応を促している。
(ワシントン 山崎洋介)