後半戦に挑むフィリピンのドゥテルテ大統領

 フィリピンのドゥテルテ大統領は就任して4年目を迎え、大統領任期6年の後半戦を迎えた。内政課題の一丁目一番地とする麻薬問題では、違法薬物の撲滅活動の継続とともに凶悪犯罪対策として死刑の復活の必要性を強調。外交懸案の中国と対立する南シナ海の領有権問題をめぐっては紛争回避を重要視し、平和的な解決を模索する考えを示している。
(マニラ・福島純一)

凶悪犯罪対策に死刑復活要請
南シナ海問題は紛争回避重視

 任期の半分を過ぎ、実現されていない公約も多いが、ドゥテルテ氏の支持率は7月の世論調査で80%を記録しており、国民の満足度は非常に高いものとなっている。近年の歴代大統領の場合、政権後半になると汚職問題などが浮上して国民の支持を失いレイムダック化が加速。反政権の世論が広がり抗議集会が多発するなど、次期大統領選を見据えた政権交代に向けた動きが活発化するのが常だった。

ドゥテルテ大統領

フィリピンのドゥテルテ大統領(AFP時事)

 しかし、ドゥテルテ氏の場合は、任期6年の折り返し地点を迎えたにもかかわらず、依然として極めて高い政権支持率を維持している。任期を迎えるまでこの支持率を維持できれば、5月の上院選の圧勝を踏まえ、ドゥテルテ氏の後継者が次期大統領となる可能性は非常に高い。

 ドゥテルテ氏は7月22日、マニラ首都圏の下院議事場で4回目となる施政方針演説を行った。最重要課題として位置付ける違法薬物の撲滅をめぐっては、「この社会的な脅威との戦いには、まだ長い道のりがあることを知っている」と述べ、難航している現状を認めながらも、「この社会的モンスターの生き残りを可能にしている腐敗を排除しなければならない」と強い決意を表明した。

 その上で同氏は、さらなる厳罰化が必要だとの考えを示し、議会に死刑の復活を強く要請した。違法薬物犯罪に極刑を科す理由として、2017年にイスラム過激派に占領されたミンダナオ島のマラウィ市を奪還した後に、大量の違法薬物が発見された事例を挙げた。違法薬物を資金源とするテロリストとの5カ月間にわたる戦闘で、175人もの警官や兵士が殺害されており、テロ対策の観点からも死刑が妥当だという理屈だ。

 中国と領有権問題で対立する南シナ海をめぐっては、「繊細なバランスある行動が求められる」と現状を分析。領海や天然資源の保護が重要であることを認める一方、万が一、武力紛争となれば多くの兵士が犠牲となり、未亡人と孤児が残されるなど代償の大きさを強調して、あくまでも平和的な解決を模索する姿勢を示した。また、仲裁裁判所の判決にも言及し、国際的にも南シナ海はフィリピンの領海として認められていると訴えた。

 ドゥテルテ氏の功績として国際社会からも認められたものとして、バンサモロ基本法を成立させミンダナオ地方に、念願だったイスラム自治政府を樹立したことがある。施政方針演説でも強調していたが、それと同時並行で進めていた連邦制への移行については国民の理解が得られず難航している。この点は同演説でも触れずじまいだった。すでに大統領任期も折り返し地点を迎え、憲法改正を伴うフィリピンの連邦制移行は時間的に難しいとの見方も出ている。

 また、非正規雇用を禁止し、労働者の正社員化を企業に求める労働者法案の成立に関しても演説では触れなかった。法案はすでに議会を通過して大統領の署名を待つばかりだった。が、施政方針演説後、ドゥテルテ氏は正式に署名を拒否した。昨年の施政方針演説では重要公約として早期実現を約束していたが、雇用主側の負担が大きいことが明らかとなり、諸外国との競争に不利になると判断したようだ。

 異例の高支持率を維持するドゥテルテ氏だが、がん罹患(りかん)で不安視された健康問題を抱え、最近は、あまりに酷い汚職の実態や、終わりの見えない麻薬戦争などの重圧を告白し、弱音を漏らす場面も次第に多くなっている。残りの任期で、これまでのような辣腕(らつわん)を振るい続けていくことができるのか、次期大統領選まで楽観はできない。