大阪都構想に示された民意にも議論促すばかりの朝・毎と変わらぬ読・産

◆的確だった毎日社説

 7日投開票の統一地方選前半戦の最大の焦点は、大阪維新の会が大阪都構想への再挑戦を訴えて仕掛けた大阪ダブル選に対する府民の審判であった。これについては後述し、まず大阪ダブル戦にすっかり食われた形となった統一地方選前半戦について。

 41道府県議選の結果をコンパクトにまとめた毎日(社説・9日付)の的確さに軍配を上げたい。自民は前回(2015年)に続いて道府県議選で、総定数2277議席の半数を超える1158議席を獲得し、得票率も40%(前回39%)。大阪府議選では自民が大敗しても「(維新は)憲法改正など政策全般をみれば安倍政権に近い。大阪も含め『総保守』の堅調ぶりが目立ったのが統一選前半戦の結果だ」というわけである。

 野党についても毎日は耳の痛い指摘をする。第1党の立憲民主党が自民の1割程度の118議席、国民民主党の83議席を合わせても201議席で、前回の旧民主党が獲得した264議席からさらに後退した。そこで「『反安倍』の旗を掲げるだけで地方選は戦えないことははっきりしている」「自民党のスキャンダルを追及する空中戦に頼るばかりではなく、総保守に対抗する政策と人材の蓄積に地道に取り組む必要がある」と迫った。的確な正論である。

◆大手紙も維新に完敗

 さて、本題の大阪ダブル選である。

 大阪維新の会は大阪都構想への再挑戦という大義を掲げ、前知事の松井一郎氏(56)と前市長の吉村洋文氏(43)が辞職して、立場を入れ替えて立候補して信を問う背水の陣を敷いた。都構想に反対する自民党は公明、立憲民主、国民民主に加え、果ては共産党とまで手を組み、束になってもかなわない。反維新包囲網を打ち破られ、維新の圧勝となった。知事、市長選の勝利はもとより、府議選でも過半数超え、市議選だけが過半数に少し届かないが第1党である。

 討ち死にしたのは反維新包囲網を敷いた維新以外の党だけでない。維新批判で反維新陣営を後押しした大方の新聞も、維新に完敗したと言っていいのだ。大阪ダブル選が決まった3月、毎日は「大阪知事・市長の策略 地方自治への二重の背信」(5日付)、朝日は「住民不在の党利党略だ」(9日付)と維新潰し、維新斬りの論陣を張った。日頃、朝日とは見解を異にすることの多い読売も「奇策で都構想前進するのか」(9日付)と左派紙に同調し、産経まで「意義を見いだせない選挙」(同)と大義に正面からの論及を避けたのである(詳しくは増記代司氏の小欄3月19日付参照)。

◆劇場型の手法を批判

 今回の統一地方選前半戦とは別に、各紙は維新の大阪ダブル選圧勝についての社論を掲げたが、結果についての複雑な思いをのぞかせている。

 「党略を割り引いても、都構想に対して、府民から一定の理解が示されたとみるべきだろう」と毎日(8日付)は結果を渋々認めた形である。朝日(8日付)と日経(9日付)はそれぞれ「都構想巡る議論深めよ」「大阪都構想の議論深める時」と、議論を促すテーマを展開。その一方で、大阪ダブル選挙に至った経緯について「維新による脱法的な行為は看過できない」、不意に選挙を仕掛けた「松井氏と吉村氏は反省すべきであり、今後の都構想論議で『奇策』を弄(ろう)してはならない」(朝日)と、あくまで正義はわれにあり、の姿勢である。

 ならば、選挙前に左派紙に結果的に同調した読売(9日付)、産経(8日付)はどうか。読売は「万博誘致を実現し、府立大と私立大の法人統合などの改革を進めた。有権者はこうした実績を評価し、維新に引き続き府・市政を委ねたのだろう」と民意を分析。その上で、これまで維新が駆使してきた劇場型の手法に疑問を呈した。そして「大阪ダブル選を制しただけで、大阪都構想が前進すると考えるのは早計だ。反対勢力の意見も真摯(しんし)に聞き、粘り強く対話を重ねる」ことを求めた。産経も読売に似た主張で「まず優先されるべきは、府市の健全運営」だとした。両紙とも何か煮え切らないのである。

(堀本和博)