イラン制裁再開、核合意厳格化で米の復帰促せ
米国がイラン核合意から5月に離脱した後、対イラン制裁を一部再開した。トランプ大統領はツイッターに「今まで最も効果的な制裁を科した。11月にはさらに強化される」と書き、制裁を完全復活する構えを見せて、核合意をさらに厳格にする取引にイランが応じるように仕向けるが、緊張を高めるだけの結果にならないか懸念される。
中東でテロ組織を支援
トランプ氏が制裁再開に踏み切った際に挙げた理由の一つが、イランの中東地域におけるテロ支援だ。イランは欧米側が対イラン制裁を解除する代わりに濃縮ウランの保有などを大幅に制限して核開発を難しくすることで2015年に合意した。これにより経済上の利益を得て国力が回復し始めたが、テロ活動をしてきた武装組織などに軍事・資金援助を行っていることには批判があった。
イランは、シリアに革命防衛隊を派遣してアサド政権を支援しているほか、レバノンではイスラム教シーア派武装組織のヒズボラ、イスラエルのガザ地区で反イスラエル闘争を続けるイスラム根本主義組織ハマス、イエメンでサウジアラビアと対立するフーシ派を援助するなど、域内の宗教・民族紛争を助長する脅威となっている。イラン側はまずテロ組織への軍事・資金援助の中止で対話の糸口をつかむべきである。
イランの存在感が中東で増したのは、今世紀に入ってからの混乱のためだ。米国の対テロ戦争でアフガニスタンのタリバン政権が倒れ、イラク戦争ではイスラム教スンニ派のバース党のフセイン政権が倒れた。中東の民主化運動「アラブの春」がシリアに波及してアサド政権が追い込まれると、過激派組織「イスラム国」(IS)がイラクとシリアに勢力圏を築き、国際社会がIS掃討に取り組んだ。
イランと国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国が核合意に取り組んだのは、ISという異常な新興テロ勢力に直面したことが背景にある。
中東で核兵器が拡散し、ISのようなテロリストが疑似国家を築き核を手にすれば、欧米に核攻撃しかねない脅威だった。また、米国がイランと1979年のイラン革命を機に断交している半面、英独仏中露の5カ国にとっては企業が制裁解除によりイラン市場に進出しやすい利益もあった。
当時のオバマ米政権はイランとの融和的な協議を急ぎ、合意内容は濃縮ウラン保有を制限したものの、縮小した施設での核開発の可能性があり、弾道ミサイル開発は禁止されない不十分さを残した。このため、トランプ氏が「ウラン濃縮を停止しない限り制裁を継続する」と訴えたのは理由のあることである。
欧州は仲介役果たせ
だが、一度交わした合意を離脱し、再制裁を加えることにイラン側が反発するのは当然だ。欧州連合(EU)は遺憾を表明し、イランと取引する企業を米国の制裁から保護する損失補填請求の権利を認めるなど米欧で対応が分かれた。欧州諸国は米国の復帰を促す対話のため、核合意に新たな条件を加えるようイランに求めるなど仲介役を果たしてほしい。