駐独米軍のポーランド移駐を

米コラムニスト マーク・ティーセン

対露抑止力を強化
ドイツは防衛支出未達成

マーク・ティーセン

 トランプ米大統領のヘルシンキでの行動に非難が集まったが、トランプ氏がその非難を封じ込め、同時に米国の国家安全保障を強化しようと思えば、一度の思い切った行動で可能だ。現在ドイツに駐留している米軍のほとんどを、ポーランドに移動させればいい。

 ポーランド政府は最近、ドイツのシュツットガルトの米軍を、ポーランドに新設する恒久的な米軍基地に移動させることをトランプ氏に正式に提案した。トランプ氏はこの提案を受け入れるべきだ。

 米軍をポーランドに移動させれば、米大使館をエルサレムに移転させた決定に匹敵する、大胆で歴史的な決定となる。米軍を効果的に活用できるだけでなく、トランプ氏に批判的な米国の外交エスタブリッシュメントらをあっと言わせることができる。プーチン・ロシア大統領の傀儡(かいらい)とトランプ氏を非難してきた外交エスタブリッシュメントが、方向転換し、ロシアを怒らせることになると非難することになれば、さぞかしばつが悪いことだろう。ポーランド移駐は過去に例はないが、北大西洋条約機構(NATO)の東部正面を強化することになり、NATOを弱体化させていると非難してきた外交エリート層も、非難のしようはないはずだ。

◇パイプライン非難

 これが実行されれば、今月中旬のNATO首脳会議で防衛支出をめぐってトランプ氏が取った強硬路線をさらに強化することになる。トランプ氏は首脳会議で、NATOでの合意を守らず他国を頼る同盟国を非難し、合意を守っている忠実な同盟国をたたえた。国内総生産(GDP)の1・24%しか防衛支出に充てていないドイツがなぜ、米軍基地を持ち、その経済的恩恵を受け続けているのか。ポーランドのような国に駐留させるべきだろう。トランプ氏はポーランドを、「共通防衛への資金投入に関し、定めた基準を実際に達成したNATO加盟国の一つ」であり「非常に重要な」手本と呼んだ。

 トランプ氏が米軍の移駐を主張できる根拠は、ドイツの不十分な防衛支出以外にもある。トランプ氏は首脳会議で、独露間のガスパイプライン「ノルドストリーム2」計画を非難、「NATOにとって非常によくない」と主張した。その通りだ。このパイプラインによって、ドイツのロシアへのエネルギー依存が高まり、さらに、ポーランドなど東欧諸国の安全をも危険にさらすことになる。ロシアの西欧への天然ガスはすべて、ポーランドとスロバキア経由で輸出されている。つまり、ロシアが東欧のNATO同盟国へのガス供給を絶てば、ロシアにとって重要な資金源である西欧へのガス輸出をも絶つことになる。新たなパイプラインができれば、バルト海を通じてドイツに直接ガスを供給できるようになり、ロシアは、東欧への供給停止がしやすくなる。トランプ氏が、パイプライン建設をキャンセルし、NATOの東欧同盟国の安全保障を強化すべきだと言ったのは正しい。

◇米の納税者に利益

 米軍の移駐は、ロシアに対する抑止力という点でも、米国の戦略的懸念の解消に貢献する。ワシントン・ポスト紙によると、米軍司令官らは、ロシアとの軍事衝突を阻止するために急遽(きゅうきょ)、米兵を東に移動させようとしても、「この世界一強力な軍隊は、交通渋滞につかまり」「ハンビー(四輪駆動軽汎用車)は、狭い道路上をのろのろと走るセミトレーラーの後を付いていく」ことになり、「錆(さ)びて弱い橋は、戦車の重量に耐えられず、つぶれてしまう」と懸念しているという。ポーランドに駐留させれば、この問題は緩和できる。ポーランド政府は、基地建設の提案の中で、「米軍がポーランドに恒久的に駐留することで、シュツットガルトよりもさらに前方で作戦を展開できるようになる。東欧諸国とバルト諸国は、シュツットガルトの米軍、NATO軍の援護を受ける前に、ロシアが防衛線を突破するのではないかという確かな恐怖を持っており、移駐によってその恐怖は大幅に緩和される」と指摘している。

 米国の納税者にとっても利益になることだ。ポーランド政府は、20億ドルもの資金を投入し、基地建設と米兵支援の費用のほとんどを負担することを提案、「防衛支出の負担を分け合い、米政府にとってさらに費用対効果の高い決定を下す」と訴えている。領内に駐留する米軍の費用を十分に負担しない同盟国を批判してきたトランプ氏にとって魅力的な提案のはずだ。

 もう一つ、移駐を支持する理由がある。ポーランドはトランプ氏が好きだ。トランプ氏が昨年、ワルシャワで行った演説は、「ドナルド・トランプ、ドナルド・トランプ」という声援でたびたび中断された。ベルリンでこのようなことは考えられない。

 米軍のドイツ駐留は、東独からのソ連の侵攻を阻止するために西側が軍を駐留させていた冷戦時代の遺物だ。今ではその抑止力の必要性は薄れ、前線は東に移動した。米軍も移動すべきだ。

(7月20日)