気候変動に備える国防総省
政府は取り組みに否定的
トランプ米大統領は昨年「パリ協定」からの離脱を表明、政権交代後、環境保護局(EPA)、エネルギー庁など政府全体でも気候変動への取り組みに否定的だ。だが、米軍は依然、政府の干渉を受けることなく、水面下で気候変動に対して包括的、具体的な取り組みを進めている。
国防総省は表面的には政府の指示に従い、文書などでの気候変動という文言の使用を控えている。しかし、アナリスト、専門家、元軍幹部らによると、軍は依然、気候変動への対応を進めているという。
オバマ前政権のジョン・コグナー元国防次官代理は「これは軍の任務に関わる問題だ」と指摘、「海面上昇が施設に影響を及ぼし、滑走路が冠水すれば、任務に支障が出、関心を持たざるを得なくなる。…目の前の現実に対処する必要がある」と、国内外の基地が気候変動の影響を受け、対応を迫られている現状を指摘した。
今年公表された国防総省の気候変動の軍施設に対するリスクに関する報告では「気候変動」という文言はほとんど使用されていない。これは、サイトや関連する計画で気候変動に言及することをやめたEPAなどと同様だ。
国防総省の報道官ヒーサー・ボブ氏はワシントン・タイムズに対し、「気候変動は、国家安全保障に関わる問題であり、任務、作戦立案、施設にも影響を及ぼす可能性がある。国防総省は、軍の施設、インフラが気候や環境などのさまざまな困難に耐えられるようにするという点では、変わっていない」と、トランプ政権発足後も、気候変動への対応を継続していることを明らかにした。
米軍は70カ国・地域の、事実上すべての気候下の約800の基地、施設を管理しており、マティス国防長官も、気候変動が米国の国家安保への脅威であることを明言している。
沿岸警備隊のズクンフト長官は先月、気候変動の影響に備える必要性を強調。「北極で始まっていることは、北極にとどまらない」と北極圏での氷解による影響に備えなければならないと訴えた。
温暖化によって北極海の航行や、海底資源の採掘が容易になり、周辺各国が権益確保に動き始めている。ズクンフト氏は今年に入って、重武装した大型砕氷船の建造の意向を表明したばかりだ。
米西海岸では、海面上昇の軍施設への影響が表面化している。
海軍南西区域のリンゼー准将は、「海面上昇の影響は、政治的管轄区域を超えて、全関係者の協力が必要だ」と強調、サンディエゴ市当局と協力し、水位の監視を行っていることを明らかにした。
サウスカロライナ州の海兵隊新兵訓練施設があるパリス島でも、海面上昇への対応の検討を始めている。
海兵隊のウォルターズ司令官補は今年に入り上院の公聴会で、「すぐにというわけではないが、堤防の建設を検討している」と、海面上昇に備える必要性を強調した。
(ワシントン・タイムズ特約)