露大統領が年次教書演説、新型ICBM開発を誇示
今月18日に大統領選挙を控えたロシアのプーチン大統領は1日、年次教書演説を行った。貧困率の半減など社会政策に関する公約に加え、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)など数々の新型兵器に言及する異例の演説となった。新型兵器を誇示することで欧米に対抗する姿勢を見せた形ではあるが、実際には、国内向けのPRが目的、との見方も強い。
(モスクワ支局)
選挙控え国内に向けPRか
社会保障充実、財源言及なし
プーチン大統領の年次教書は例年、12月に行われていたが、今回は日程がなかなか発表されず、最終的に大統領選直前の3月1日となった。
会場も恒例の大クレムリン宮殿ではなく、クレムリンに隣接し、さまざまな展示会が開かれるマネージ展示ホールとなった。選挙を意識し、より市民に開かれた場所を年次教書の会場として選んだ形だ。また、議員らだけではなく、著名スポーツ選手からさまざまな媒体のジャーナリストまで、幅広い分野の人々を招いた。今回初めて演壇にスクリーンを置き、映像を用いたプレゼンを行ったことも、これまでと違うポイントだ。
当初、年次教書の主な内容としてアナウンスされたのは、社会経済政策に関する新たな政策公約だった。実際、年次教書の前半はアナウンス通りで、プーチン大統領は、次の任期の6年間で国民1人当たりの国内総生産(GDP)を1・5倍とすることや、子育て支援予算の40%増額、平均寿命を2030年までに80歳以上(現在は73歳)とすること、貧困率の半減などを打ち出した。
もっとも、社会保障の充実に伴う財源の確保についての言及はなかった。プーチン大統領3期目のロシア経済は、主要輸出品である原油価格の下落や対露経済制裁などによって低迷している。国営企業の民営化や技術革新により経済成長を実現すると強調したが、具体的な裏付けについては言及しなかった。
演説は例年の倍となる2時間に及び、その後半の40分は、当初のアナウンスにはなかった、ロシア軍の新型兵器の説明に費やした。
大統領の後ろに設置された大型スクリーンに新型兵器の実験風景や、CGを次々と流し、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、原子力エンジンを搭載した巡航ミサイル、超音速ミサイルなどについて、詳細な部分にまで踏み込んでその内容を公開。
新型ICBMについては、複数の核弾頭を搭載し米国のミサイル防衛(MD)を突破できるとした上で、「ロシアとその同盟国に対する核攻撃には直ちに報復する」と、その力を誇示して見せた。
もっとも、この力の誇示は、ロシア国内に向けたPRとの見方が強い。ロシアの主要なテレビ局は年次教書演説後、「偉大なロシア」と愛国心の高揚を煽(あお)る政治トークショーなどの番組を次々と流した。
第1チャンネルの番組では、プーチン大統領がお披露目した「奇跡の兵器」に愛称を付ける視聴者コンクールを行った。また、ロシアの国営外国語ニュースチャンネル「ロシア・トゥディ」のシモニャン総編集長は、新型ICBMについて、プーチン大統領の名前ウラジーミルの愛称である「ヴァロージャ」と名付けようと呼び掛け、さまざまなメディアで報道された。
これらテレビ局の報道は、プーチン大統領のコア支持層である一般庶民に向けられたもの。プーチン大統領こそがロシアを守り、ロシアを救う唯一のリーダーであると繰り返しアピールすることで、その再選を確実なものとし、さらに、大統領選での投票率を向上させる狙いがあるとみられる。
ソ連時代からの核大国であるロシアが、その核戦力を衰えさせてはおらず、MD網を突破できる新型兵器を保有しているとなれば、欧米との交渉で有利な立場を得る可能性はある。
しかし、2017年の米国の国防予算約6195億ドルに対し、ロシアの2017年の国家予算は約2160億ドルで、国防予算は約460億ドル。ロシアには米国と正面から軍拡競争ができる体力はない。軍事的な対決姿勢を強めれば、対露経済制裁の解除は遠のき、自らの首を絞める結果にもつながる。
もっとも、武器輸出を拡大させている米トランプ政権にとって、ロシアが仕掛ける“軍拡競争”は悪い話ではない。「プーチン大統領からトランプ大統領へのよきプレゼント」と指摘するロシアの専門家もいる。