モルディブ、中国の「軍事拠点化」に警戒を
インド洋の島国モルディブで政治混乱が続いている。最高裁が、投獄されていた野党政治家らへの有罪判決破棄を決め、政敵の復権に危機感を抱いたヤミーン大統領が強権を発動。非常事態が宣言され、最高裁長官らが拘束された。
シーレーン(海上交通路)の要衝にあるモルディブで混乱が続けば、国際情勢にも悪影響を与えかねない。ヤミーン氏は強権姿勢によって民主化を後退させてはならない。
最高裁長官らを拘束
最高裁は、2015年に反テロ法違反罪で有罪判決を受けたナシード前大統領(16年に亡命)ら野党政治家9人への判決を破棄。罷免された政治家12人の復権も命令した。
ナシード氏は08年、初の民主的選挙で30年にわたる独裁体制を打ち破り、大統領に就任。だが、13年の大統領選ではヤミーン氏に敗れた。
ヤミーン氏は、今秋予定の大統領選にナシード氏が出馬することを恐れて最高裁の命令を拒否し、強権発動に踏み切った。非常事態は当初15日間だったが、さらに30日間延長された。しかし、民主化を後退させることは容認できない。
国連や米国などはヤミーン氏の強権姿勢を憂慮する声明を出した。一方、中国はモルディブの混乱について「内政問題であり、モルディブの主権を尊重すべきだ」と国際社会の干渉を牽制(けんせい)している。
注意する必要があるのは、モルディブをめぐる中国とインドのせめぎあいが今回の混乱に少なからず影響していることだ。
ナシード氏は在任中、外交面で親インド路線を貫いた。だがヤミーン氏は親中路線に転換し、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」に参加したほか、中国と自由貿易協定(FTA)を締結。一連の動きにインドはいら立ちを募らせている。
中国はインド洋で、インドを囲む形で港湾や空港の整備を支援する「真珠の首飾り」戦略を展開している。モルディブでも多くの島の権利を取得した。こうした拠点の軍事利用に警戒を要する。
安倍晋三首相は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げている。インド洋と太平洋に面したアジアとアフリカを結ぶ地域の経済成長と安定を目指す構想だ。そのためにはこの地域で存在感を高める中国に対抗し、航行の自由や法の支配といった価値観を浸透させることが求められる。
安倍首相は昨年11月、トランプ米大統領との首脳会談で、この戦略の推進を確認したほか、インドのモディ首相や「準同盟国」と位置付けるオーストラリアのターンブル首相とも連携強化で一致した。日米豪印4カ国が協力して中国を牽制する必要がある。
民主化を後退させるな
モルディブは日本人に人気の高い観光地でもある。今年初めに河野太郎外相が訪れるなど、日本は中国をにらんでモルディブとの関係強化に努めている。
モルディブが中国のような独裁国家に逆戻りすれば、この地域に対する中国の影響力は強まろう。モルディブの民主化後退を防がなければならない。